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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学-アメリカ文学

『フライデー・ブラック』/ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー

1991年生まれ、ガーナ出身の両親を持つ、アフリカ系アメリカ人作家のデビュー短編集。各作品に通底しているのは、黒人差別や人間の醜さに対する怒りと、ブラックユーモア、暴力性、シュールさ、デフォルメ感といったもので、そういった各要素に真新しさがあ…

『インヴィジブル』/ポール・オースター

オースターの2009年作。前の数作と同様に、死を前にした老年の男が主人公の物語ではあるものの、多くのページはその男による若き日の回想録が占めているため、『写字室の旅』や『闇の中の男』のような陰鬱でどんよりした感じはさほど強くはない。その代わり…

『僕の名はアラム』/ウィリアム・サローヤン

サローヤンによる短編集。古き良き、と言っていいような、20世紀初頭、アメリカはカリフォルニアの田舎町での、「僕」と周囲のアルメニア人移民の家族や村の人々との生活を描いている。 物語世界に悪人は登場せず、登場人物たちは、みな大らかで明るく、基本…

『ワインズバーグ、オハイオ』/シャーウッド・アンダーソン

9世紀末のオハイオ州の架空の町、ワインズバーグに暮らす人々の小さな物語を集めた短編集。アメリカ中西部の田舎の小さな町で生きるということの倦怠や耐え難いほどの閉塞感、息苦しさ、不安や生き辛さといった感情に焦点が当てられており、ほっこりする話や…

『火星の人』/アンディ・ウィアー

有人火星探査を行っていた宇宙飛行士のワトニーは、猛烈な砂嵐によるミッション中止によって火星を離脱する際、不運な事故でひとり火星に取り残されてしまう。不毛の大地にただひとりの人類として、彼は限られた物資と己の知識のみを武器に、なんとか生き延…

『理由のない場所』/イーユン・リー

イーユン・リーによる長編第3作。16歳で自殺した少年と、作家であるその母親との対話だけで構成されている小説だ。 自身の内面深くに沈潜し、想像し、書くこと、そうしてフィクションを作り出し、フィクションのなかで生きること――たとえそこが「理由のない…

『ブリージング・レッスン』/アン・タイラー

アン・タイラーは、とにかくふつうの市井の人々の描写というやつがむちゃくちゃに上手い。というか、そもそも彼女の小説はすべて、そういった人々を描いたものだと言ってもいい。ひとくせもふたくせもあることは間違いないけれど、でも本当に平凡な人々、に…

『闇の中の男』/ポール・オースター

オースターの2008年作。2000年代にオースターが書いていた「部屋にこもった老人の話」の第5作目ということで、本作も、ひとりの老人が自室の暗闇のなかで眠りにつくことができず、頭のなかで物語をあれやこれやとこねくり回している場面から始まっている。 …

『in our time』/アーネスト・ヘミングウェイ

『われらの時代』(原題:”In Our Time”)の出版される前年、1924年にわずか170部だけ刷られたという書物、”in our time”の柴田元幸による全訳。『われらの時代』の各短編の扉部分にある超短編(1ページくらいの小品)のみを18章集めたものが一冊になってい…

『誰がために鐘は鳴る』/アーネスト・ヘミングウェイ

ヘミングウェイの長編。1930年代のスペイン内戦を舞台に、共和国側の義勇兵としてゲリラ部隊を率いるアメリカ人、ロバート・ジョーダンの4日間を描く。ジョーダンの任務はグアダラマ山脈にある橋の爆破だけれど、頼りにできるのは10名にも満たない地元のスペ…

『コズモポリス』/ドン・デリーロ

2000年のニューヨーク。若くして投資会社を経営する主人公は、自分の周りにあるすべてにリアリティを感じられないでいる。莫大な資産、鍛え上げた肉体、株式の動きを見抜く才能、特殊改造されたハイテクの豪華リムジン、優秀な部下、ボディーガード、専属の…

『ファイト・クラブ』/チャック・パラニューク

パラニュークの96年作。デヴィッド・フィンチャーの映画の方はだいぶ以前に見たけれど、最近いくつか読んでいたミニマリズム関連の本で本書がたびたび引用されていることもあり、原作も読んでみることにした。エリートビジネスマンの主人公は「完全で完璧な…

『怒りの葡萄』/ジョン・スタインベック

1930年代、折からの大恐慌に加え、厳しい日照りと大砂嵐が続いたことで、アメリカ中西部の小作農たちの多くは土地を失った。銀行と大地主たちは彼らの土地をトラクターで耕し、資本主義の名の下、合理化を進めていく。土地を追い出され、流浪の民となった彼…

『写字室の旅』/ポール・オースター

オースターの2007年作。シンプルな四角い部屋のなかに、老人が一人。彼には何の記憶もない。部屋の天井には隠しカメラが設置されており、その姿を撮影し続けている。やがて、彼の元をさまざまな人物が訪ねてくるのだが…! 長編と呼ぶには分量少なめの本作は…

『時は乱れて』/フィリップ・K・ディック

時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,山田和子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/01/10メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る ディックの1959年作。かなり初期の作品だけれど、なかなかおもしろく読め…

『こうしてお前は彼女にフラれる』/ジュノ・ディアス

こうしてお前は彼女にフラれる (新潮クレスト・ブックス)作者: ジュノ・ディアス,都甲幸治,久保尚美出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/08/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (17件) を見る 前作『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』にも出てきたユ…

『チャイルド・オブ・ゴッド』/コーマック・マッカーシー

チャイルド・オブ・ゴッド作者: コーマック・マッカーシー,Cormac McCarthy,黒原敏行出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2013/07/10メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (22件) を見る マッカーシーの1973年作。長編としては3作目、『すべての美しい…

『日はまた昇る』/アーネスト・ヘミングウェイ

ヘミングウェイの最初の長編。短いセンテンスを連ねた簡潔でリズミカルな文体、ぶっきらぼうな会話文、主人公の心情をあからさまにしないハードボイルドな態度、などといった彼の語りのスタイルは、今作の時点ですでに確立されていると言っていいだろう。 物…

『いちばんここに似合う人』/ミランダ・ジュライ

映画監督としても有名な、ミランダ・ジュライのデビュー作。16の短編が収められているが、どれをとってもアイデアはキュートで文体はポップ、しかしそこで描かれる心情というのはひりひりとするような痛みや孤独にまつわる切実な感情である、というところで…

『ノアの羅針盤』/アン・タイラー

アン・タイラーの作品で描かれるのは、ごく平凡でまじめで、ちょっぴり野暮ったくて、家族との関係において何らかのトラブルやフラストレーションを溜め込んでいる、そんな登場人物たちの人生の一シーンである。プロットには概して大きな起伏はなく、いわゆ…

『ワールズ・エンド(世界の果て)』/ポール・セロー

米作家、ポール・セローの短編集。各短編はロンドン、コルシカ島、アフリカ、パリ、プエルト・リコなど、いずれもアメリカ人の主人公たちにとっての"異国"を舞台としている。"異国"のルールを理解/把握することのできない彼らは、漠然とした不安や寄る辺のな…

『ブルックリン・フォリーズ』/ポール・オースター

オースターの小説の主人公は、作者の年齢とともに少しずつ年寄りになってきているけれど、本作の語り手はもうすぐ60歳、壮年期も終わりに差し掛かり、すでに仕事をリタイヤしたおっさんである。そんなおっさんが、オースターの小説の主人公らしく、延々と内…

『わがタイプライターの物語』/ポール・オースター

オースターは、ごく若い頃に友人から安く手に入れたタイプライターをいまだに使い続けている。聞く限りでは、コンピュータというやつはどうも信用ならないもののようだし(間違ったキーを押すと、原稿がいきなり消えてしまったりするっていうじゃないか!)…

『タイガーズ・ワイフ』/テア・オブレヒト

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)作者: テアオブレヒト,T´ea Obreht,藤井光出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2012/08/01メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (17件) を見る 旧ユーゴスラヴィアはベオグラード出身、1985年生まれ…

『スローターハウス5』/カート・ヴォネガット・ジュニア

ヴォネガットの長編第6作目。作中、過去の作品の主要なキャラクターたちがたびたび顔を出していることからも明らかであるように、いままでの集大成といった趣の作品である。取り扱われるモチーフは、ヴォネガット自身が体験したという、第2時大戦中のドレス…

「アウルクリーク橋の出来事」/アンブローズ・ビアス

米ジャーナリスト/作家だったビアスの、おそらくは唯一有名であるとおもわれる作品が、この短編、「アウルクリーク橋の出来事」だ。ある男が橋の上に立っている。周囲には銃を携えた兵隊が多くおり、男の首には縄がまかれている。どうやら彼はこれから絞首刑…

『ユービック』/フィリップ・K・ディック

他の多くのディックの作品と同様、『ユービック』においても、世界のありようへの違和感、自分の周囲の世界がどんどん足元から崩れていくような、悪夢のような感覚が全体のムードを決定づけている。ただ、本作では、それに加えて、絶えず迫り来る死の匂い、…

『高い城の男』/フィリップ・K・ディック

本作は群像劇のような体裁をとっており、アメリカ人、日本人、ドイツ人のさまざまな立場の人物たちが代わる代わる登場する。人種も身分もばらばらな彼らが、この世界に対する己の所見を語ることで、枢軸国側の勝利の結果、世の中がどのように変化したのかが…

『ルル・オン・ザ・ブリッジ』/ポール・オースター

映画『ルル・オン・ザ・ブリッジ』の脚本をひさびさに読む。オースター作品のなかでもとりわけファンタジーめいた本作(なにしろ、夢オチなのだ)だけれど、扱われているテーマはヘヴィで、胸にずっしりとくる。個人的には、すごくすきな作品だ。サックス奏…

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』/ジュノ・ディアス

ちょっと前に話題になっていた一冊。ざっくりとした内容としては、RPGや『ウォッチメン』、『AKIRA』を愛してやまないナードな青年、オスカーを主軸として、ドミニカ共和国におけるトルヒーヨ独裁の歴史を交えながらその家族の物語が語られていく、という感…