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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学-日本文学

『皆のあらばしり』/乗代雄介

歴史研究部に所属する高校2年生の「ぼく」は、部活の研究で皆川城址を訪れた際、怪しげな中年の男に出会う。こてこての大阪弁がいかにも胡散臭い男だったが、その異様な博識は「ぼく」を否応なしに惹きつけていくのだった。男は、「ぼく」が入手した旧家の蔵…

『ないもの、あります』/クラフト・エヴィング商會

「よく耳にするけれど、一度としてその現物を見たことがない」ものたちをクラフト・エヴィング商會の「商品目録」という形で紹介していく一冊。「堪忍袋の緒」や「口車」、「左うちわ」、「無鉄砲」、「おかんむり」などなど、日本語のことわざや慣用表現の…

『雨はコーラがのめない』/江國香織

江國の愛犬、オスのアメリカン・コッカスパニエルの「雨」との生活と、その生活のなかでの音楽について書かれたエッセイ集。江國の小説や文章には、なんだか雨が似合うイメージ――ひそやかに、静かにしっとりと降る雨、世界をふわりと白く曇らせるような雨――…

『わたくし率 イン 歯ー、または世界』/川上未映子

ひたすら饒舌というか自意識をそのまま垂れ流しにしたような、大阪弁と丁寧語が混じった、どろっとした文体が特徴的な中編だ。語り手の「わたし」は、人の思考は脳ではなく奥歯でなされているとかんがえている不思議ちゃんで、生まれる予定のない自らの子供…

『マチネの終わりに』/平野啓一郎

ネットでレビューや感想を見ていると、本作への批判は、主に物語中盤で引き起こされる「すれ違い」があまりにもご都合主義的で、作りもの感満載である、という点に対するものが多いようだ。たしかに、俺自身、この小説を読みながら、うわ、この展開、まじか…

『砂の女』/安部公房

主人公の男は、昆虫採集のために休暇をとって人里離れた砂丘に向かう。そこには砂に埋もれかけた小さな村があり、男は一夜の宿を求めてある家を訪れる。家には女がひとり暮らしているのだが、なにしろそこは砂穴の底に位置する家、放っておけばたちまち砂に…

『快楽としての読書 海外篇』/丸谷才一

丸谷才一による海外文学の書評集。書評というと基本的には新刊が対象になるものだけれど、そこは大ベテランの丸谷才一、1960年代から2001年までという長いスパンのあいだに書かれた書評600編ほどのなかから116編が選ばれ、収められている。結果として本書は…

『三四郎』/夏目漱石

小川三四郎という青年が熊本の田舎から東京にやって来て、粗忽者の友人や風変わりな先生、謎の女性らと出会う、そのとりとめもない日常を描いた作品だ。扱われるエピソードはどれもごくささやかなもので、まったく派手さはない。三四郎がふらふらとあちこち…

『職業としての小説家』/村上春樹

村上春樹による自伝的な小説家論。どのようにして小説を書くに至ったか、個人的なシステムにしたがって毎日休まず書くこと、書き直すこと、走ること、観察すること、他人の意見について、文学賞について、海外での受容についてなど、過去にもあちこちで少し…

『女のいない男たち』/村上春樹

村上春樹の2014年作。短編集としては、前作『東京奇譚集』から9年ぶりの新作ということで期待して読んだのだけれど、これは素晴らしかった。『1Q84』あたりから、村上の作品の雰囲気はそれまでよりぐっと静謐なものになっているように感じられていたのだけれ…

『天使の囀り』/貴志祐介

Kindleにて。手堅いサスペンス・ホラーものを得意とするエンタメ作家、貴志祐介だけれど、今作は怖いというよりも気持ち悪い、それも超絶気持ち悪い一作だと言っていいだろう。何が気持ち悪いのか、ってところは本作のサスペンス要素に大きく絡んでくるので…

『丕緒の鳥 十二国記』/小野不由美

なんと12年ぶりのシリーズ新刊。 本作は短編集で、「丕緒の鳥」,「落照の獄」,「青条の蘭」,「風信」の4編が収められている。各編に共通しているのは、荒廃した国における民の生活や小役人の苦悩みたいなものを切り取ったスケッチ的な内容で、王や麒麟など、…

『サマータイム』/佐藤多佳子

サマータイム (新潮文庫)作者: 佐藤多佳子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/08/28メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 35回この商品を含むブログ (99件) を見る いつもよりちょっと早起きした休みの日、薄曇りの空から落ちてくる太陽の光はやわらかく、風…

『考える練習』/保坂和志

保坂和志のインタビュー集。編集者との対談形式になってはいるものの、ほとんど保坂がひとりでしゃべり続けているので、まあインタビュー集という言い方で間違いはないんじゃないかとおもう。保坂の近頃の小説以外の作品はだいたいどれも同じような内容なの…

『回送電車』/堀江敏幸

回送電車作者:堀江 敏幸中央公論新社Amazon 「書店では置き場のない中途半端な内容で、海外文学評論の棚にあるかと思えば紀行文の棚に投げ入れられていたり、エッセイや詩集の棚の隅でに寄せられているかと思えば都市計画の棚に隠されていることもあるといっ…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』/村上春樹

今作の基本的なトーンというのは、いままでの村上の小説を読んできた読者にとってはおなじみのものだ。主人公の多崎つくるは、(例によって)内向的で自己完結的、他者と深く関わることのない生活を送っており、生きることに対して積極的な関心を持っていな…

『とるにたらないものもの』/江國香織

江國香織のエッセイ集。タイトル通り、身のまわりの「とるにたらないものもの」――ふつうに存在しているもの、無駄なもの、べつに気にしなくても何の支障もないもの――に宿る詩情への偏愛が語られている。どれも2,3ページ程度の短い文章だけれど、彼女独特の視…

『なつのひかり』/江國香織

江國香織の95年作。タイトル通り、白っぽい日差しや湿った匂い、けだるさ、客のこない小さな商店、田園、砂浜などといった、夏のイメージが全編からただよってくる、ちょっとシュルレアリスティックな匂いのするのファンタジーだ。江國作品らしく、登場人物…

「憤死」/綿矢りさ

ちょっとまえの『文藝』にて。綿矢の作品のタイトルはなかなか印象的なものがおおいのだけど、今回も、おーそうきたか…っておもわせるようなインパクトのあるタイトルだ。"憤死"するのは、物語の語り手である主人公(♀)の女ともだち、佳穂。彼女は、彼氏に…

『甲賀忍法帖』/山田風太郎

山田風太郎ってはじめて読んだのだけど、これって忍者版のジョジョだったんだなー、とおもった。たとえば、こんなところがとてもよく似ている。 >> ・いろいろな人知を超えた能力(忍法)を持った忍者たちが、ふたつの陣営に分かれて争う。 ・登場人物は大勢…

『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』/杉作J太郎

坪内祐三の推薦文が書かれた帯(↑)が衝撃的な本作だけど、これはなんていうかもう、ほんとにかなりしょうもない小説!なにしろ、J太郎氏本人がモデルとおぼしき40がらみのおっさん(元・プロレス実況解説者)が、宇宙人の侵略から地球を守るための地下組織…

「秋」/芥川龍之介

姉妹と従兄の三角関係を描いた短編。小説家になりたかった主人公の信子と、同じように文学を志す従兄の俊吉は互いに惹かれ合っていたはずだったが、どうやら妹の照子も俊吉のことが好きらしい、ってわかった途端に信子はあっさりと身を引いて他の男と結婚し…

『だれも知らない小さな国』/佐藤さとる

ふらっと立ち寄った本屋の文庫平積みコーナーにコロボックルが置いてあっておどろいた。多くの小学生たちと同様、俺も青い鳥文庫でコロボックルシリーズを読んでいたわけだけど、ついに講談社文庫に入るとはね!とおもい、なんとなく手にとって帯を見てみる…

『空飛ぶ馬』/北村薫

北村薫のデビュー作。たしか高校生の頃に一度手にとったことがあって、そのときはこの女子大生の一人称文体が"作り過ぎ、狙い過ぎ"なようにおもえてしまった――こんな"文学少女"然とした子、どこにいるんだよ!?って――のだけれど、今回はわりと素直な気持ち…

『音楽』/三島由紀夫

ある日、精神分析医の汐見のもとを訪れた美しい患者、麗子。彼女は「音楽が聞こえない」と言うのだが…! 昼メロ風のプロットを用いて、性の深遠さ、神聖さに近づこう、という感じの、バタイユ臭がぷんぷんする一作。「わたくし、音楽が聞こえませんの」に始…

『ビッチマグネット』/舞城王太郎

思うに、この世のある部分の人たちは、誰かの本当の気持ちをそのまま話されることに耐えられないのだ。自分たちの本当の気持ちも言葉にすることができないし、そうしようとも思わないものなのだ。 ひょっとしたらそういう人の一部が物語を創るんだろう。そう…

『クリスマス・テロル invisible×inventor』/佐藤友哉

昨年はじめて『フリッカー式』を読んで、そこから順番に鏡家サーガを読み進めていったのだけど、4作目のこれがいままでのなかでいちばん好きだな、とおもった。短いながらも登場人物たちの壊れっぷり、やけっぱちな感情の暴走っぷりは迫るものがあるし、小…

『ルート350』/古川日出男

本がそれなりに好きな人なら誰しも、おいおいここに書いてあるのってまさに自分のことじゃん!とか、自分のなかにあるもやもやした気持ちのことをなんてうまく言葉にしてるんだろうこの文章は!なんて感じたことがあるんじゃないだろうかとおもう。そんな感…

『煙か土か食い物』/舞城王太郎

ひさしぶりに舞城王太郎のデビュー作を読み返していたのだけど、やっぱりすっげーおもしろいな!とおもった。とにかく無敵で行く手を阻むもの全てを吹っ飛ばしていく魅力的なキャラクターと、その内言を圧倒的な勢いで繰り出していく饒舌過ぎる文体が最高だ。

『紫色のクオリア』/うえお久光

ラノベ好きな友人がこれおもしろいよー、って言って貸してくれた一冊。渡された本の表紙を見て、まじかー、ちょっときついかな…とおもい、タイトルからはもじゃもじゃ頭の脳科学者の顔がおもい浮かんで、俺、きっとこの本と相性よくないよ…なんておもったの…