Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『ダイナソーJr./フリークシーン』

Dinosaur Jr.のドキュメンタリー映画。バンドにがっつりと密着して作成したというよりは、軽く関係者にインタビューしながらいままでの流れを追ってみた、というような作りになっており*1、内容的にはさほど濃密なものではない。とにかく全体的に淡々としているのだ。とくにJとルーは本当に淡白な感じで、予想外なことなど一言も喋らないくらいだと言っていい(というか、バンドのドキュメンタリーのくせに、彼らの台詞そのものがめちゃくちゃ少ない)。が、まあ、好意的な見方をすれば、観客におもねるようなところがぜんぜんない映画だ、と言うこともできるだろう。

作中では、彼らの音楽性(ノイジーなサウンドとポップなメロディーの融合、アングラ感とユーモラスな雰囲気の共存、etc.)であるとか、バンドサウンドの特徴(ジャズマスター+ビッグマフのノイジーな歪みの爆音ギター、疾走感ある中音域のベースと安定したドラミング、絶妙にやる気の感じられないボーカル、etc.)といったことについては大して触れられていない。では何が語られているのかというと、それはもっぱらメンバー3人の関係性についてである。

彼らに近しいバンドのメンバー――Sonic Youthのキム・ゴードンやサーストン・ムーア、Black Flagのヘンリー・ロリンズなど――は口々に、「ダイナソーJr.の3人はバンドとしては完璧なのに、演奏中を除けば到底仲がよさそうには見えない」と言う。それはどうやら実際その通りであったようで、メンバー3人がたのしそうに談笑したりじゃれ合ったりしているようなシーンというのは、ただの一度も映し出されることがない。ちゃんとコミュニケーション取れてるの?って、見ているこっちが心配になってしまうくらいなのだ。

おまけに、J自身も3人の関係性について、「友達というより家族だな。それも機能不全の」などと語っている。これはつまり、コミュニケーションがいまいち取れていない程度ではもう離れようがないというか、過去の怒りや恨みがあっても一緒にやっていくしかないというかやっていけてしまうというか、彼らはもはやそういう抜き差しならぬ関係になってしまっているという意味なのだろう。音楽だけで結び付けられた、機能不全の家族。そんな関係性が奇跡的なバランス*2で整ったときにだけ、ダイナソーJr.というバンドが成立し、あの素晴らしい轟音を鳴り響かせることができる、ということであるようだ。

*1:もっとも、以下のようなバンドの歴史がひと通りわかるようになってはいる。
80年代USパンク/ハードコアに感化されたJとルー、マーフが出会い、バンド結成
→85年、『Dinosaur Jr.』でデビュー
→88年、3rd『Bugs』でそこそこのヒットを飛ばすも、ツアー中にJとルーが大喧嘩し、そのままルーがバンドを脱退
→91年、『Grenn Mind』でメジャーデビュー
→93年、マーフもメンタルを崩して脱退
→JはダイナソーJr.を継続するも、ハードコアやグランジのシーンは消失、バンドも売れなくなってしまい、97年に解散
→2005年、年齢を重ねて多少丸くなった3人が集い、オリジナルメンバーで再結成

*2:作中、Pixiesのフランク・ブラックはこんなことを語っていた。「バンドっていうのは大きな怪獣みたいなものだ。ダイナソーJr.なら、モーフが両脚、Jが右腕、ルーが左腕、頭はふたつあって大きな頭がJ、小さな頭がルーだな。でも、バンドで重要なのは頭じゃない、両腕と身体のバランスなんだ。それが良ければ、ぐおーって突き進んでいける」…わかるようなわからないような、でもダイナソーJr.のことをたしかによく表しているようにも感じられる、妙な納得感のある説明だ。