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『若き商人への手紙』/ベンジャミン・フランクリン

資本主義が生の全体を覆い尽くしているこの世界、金こそが人の生きる尺度であり、商品価値によって人が選別されるこの世界で賢く生き、成功するための知恵や行動規範について書かれた一冊。世に数多存在する大富豪本や人生の成功法則本、ビジネス書の原型とも言われる本書は、資本主義の優秀な奴隷になるためにはいかなる意識を持つ必要があるか、について語っている本だと言ってもいいだろう。

私たち自身の「怠惰」は、私たちにとって実際にはるかに重い税金と言えるのです。完全な怠け者、すなわち、何もしないでいるために浪費する時間や、つまらないこと、何の役にも立たない遊びに使う時間を考えれば、よくおわかりになるでしょう。
「怠惰」は病気を招き、確実にあなた方の寿命を縮めてしまうのです。(p.22)
勤勉であれば、決して飢える心配はありません。
プア・リチャードが言うように、
『働き者の家には、飢えが家の中をのぞこうにも、入ることは決してない』
からです。(p.26)
余暇というのは、何か有用なことに使う時間をいうのです。
したがって余暇というのは、勤勉な人であってはじめて得られるものなのです。
怠け者には決して得ることができないのです。(p.29)

勤勉に働き、従順な奴隷になれ、さもなければ金を稼ぐことができずに死ぬぞ。時間には利子がつくのだから、時間を無駄にすることはすなわち機会損失であり、何も生み出していない時間は罪である、未来のために今を生きよ。といった脅しが全編通して繰り返されているわけだが、このような内容は私たちにとってはいまさら言われるでもないことだろう。本書が書かれた当時ーー資本主義経済の黎明期ーーであればともかく、現在はフランクリンの主張はもはや完全にコモンセンスと同一化してしまっているからだ。

現在の資本主義社会の生きづらさというのは、このような脅し、プレッシャー、恐怖心を植え付けることによって社会を駆動しようとしているところにあるのではないだろうか、という気がする。フランクリンの言っているようなことだけが本当なのか?他のかんがえ方はあり得ないのか?ということは常に疑い続けていくべきだろう。