本-文学-アメリカ文学
他の多くのディックの作品と同様、『ユービック』においても、世界のありようへの違和感、自分の周囲の世界がどんどん足元から崩れていくような、悪夢のような感覚が全体のムードを決定づけている。ただ、本作では、それに加えて、絶えず迫り来る死の匂い、…
本作は群像劇のような体裁をとっており、アメリカ人、日本人、ドイツ人のさまざまな立場の人物たちが代わる代わる登場する。人種も身分もばらばらな彼らが、この世界に対する己の所見を語ることで、枢軸国側の勝利の結果、世の中がどのように変化したのかが…
夢や幻想といったものは、現実には起こらなかったこと、ではあるだろう。それでも人がそれを経験し、そこで何かを信じたとき、それはその人にとっての真実になり得る。そんなテーマが美しく描かれた小品
本作が試みていたと思われる、オタク趣味とドミニカ史の融合というのは成功していたのだろうか?家族の物語としては楽しめるが、「新しさ」がある作品かというと疑問が残る。ナードな装飾の下にあるのは、シンプルで古典的な青春小説ではないか
ジェイ・マキナニーの98年作。登場人物たちの会話やら品評やらのシニカルさと、その裏に潜んだナイーブさとが売りのマキナニーだけど、本作でもそれは変わらない。プロット自体は単調で、どちらかと言えば退屈なくらいなのに、なんとなくずんずん読めていっ…
ちょっと変わった「図書館」に住み込みで働いている「私」を主人公にした、ブローティガンにしてはわりと長めの小説。全体に穏やかで、ゆったりとした時間の流れを感じさせる作品だけど、とくに物語前半の、「図書館」の描写が印象的だった。まるで世界の果…
きのう、ずいぶんひさしぶりにカポーティの「クリスマスの思い出」を読んだのだけど、うわっ、これ、こんなにぐっとくる物語だったっけ!?と驚いた。この作品を俺は少なくとも3回は読んでいるのだけど――1回目は中学か高校の頃、2回目はこの本(村上春樹訳の…
青いノートに小説を書きつける男の物語。メタフィクション、偶然の連鎖、作中作といったオースター的手法が洗練された一作だ。ケレン味溢れる筆致を楽しみつつ読んだが、初期作の圧倒的な切実さは薄れた印象も
鋼のように研ぎ澄まされたクールな文体から、ふとした瞬間に零れ落ちるセンチメンタリズム。その絶妙な「さじ加減」が描き出す、男たちの孤独と友情の美しさを辿る
最近映画化されたこともあって、何かと話題の『隣の家の少女』。まあ正直言って、おもしろい小説、たのしい読書というわけにはいかなかったけれど、一息で読ませてしまうような牽引力を持った作品だった。
ホメロスの『オデュッセイア』を下敷きにした、奇想天外でクレイジー、危機また危機って物語のくせにとにかくドキドキさせられることのない、脱力SF。なのだけど、それでいて延々と読んでしまうようなおもしろさもちゃんとあって、頭のよさとセンスのよさを…
もう何もかんがえたくない、何もしたくない。だってもう眼はしばしばするし、首はぐきぐき、頭の奥のほうなんかじわじわと痺れてきてる、って状態でオフィスを出るこんな夜は、どうしても肉が食べたくなってしまう。中央線を降り、駅前の商店街を歩いてねぎ…
『イー・イー・イー』はシニカルかつセンシティブな雰囲気を持った小説だと先日書いたけれど、それと同時に、超くだらないオフビートでダウナーなギャグをちょいちょいかましてくる作品でもあった。もうほんとどうでもいいけど、でも妙におかしい、って箇所…
大学を無事に卒業して一度はちゃんと就職したもののすぐに辞めてしまい、ドミノ・ピザでだらだらと働きながら、いかんともしがたい倦怠感や寂しさ、ネガティブ感をいつもいつももてあましているフリーターのアンドリュー@フロリダの物語。
荒廃した世界を歩来続ける父と息子。「火を運ぶ」とは何か?それは希望も根拠もないところでとにかく信じてみること。神無き世界で、やぶれかぶれな信仰の形を見出そうとする物語
タイトルのかっこよさに負けず劣らず、内容もじつに素晴らしいディックの74年作。ある朝、TVスターの男(ジェイスン・タヴァナー)が目を覚ますと無名の一般人になっていた、っていういかにもSF的な世界の話であり、その男を追う警察本部長(フェリックス・…
書けなくなった晩年のヘミングウェイが、エナジーに溢れていた若き日のパリを振り返る。眩しい日々へのあまりに強すぎるノスタルジア。かつての自分を手繰り寄せるようなその記憶の数々は、どこか悲しく、そして愛おしくも感じられる
なんとなくヘミングウェイの文章が読みたくなって、実家から持ってきた文庫を開いた。もともとは親父の本なのだけど、妙なところに鉛筆で線が引いてあったりなんかして、ちょっとたのしい読書だった。 文章はあくまでもハードボイルドで、つまり登場人物が自…
スプロール3部作の2作目。ジョゼフ・コーネルの箱をモチーフにした本作は、テクノロジーの不穏さから詩的なノスタルジアへ舵を切っており、前作より読みやすい。ギブスンの繊細な一面が見える作品
文章は難解で、サイバーパンク的小道具には古臭さもあるが、テクノロジーと社会の変化を描き出した古典としての力強さがある。不穏かつ肥沃な未来のビジョンはいまなお魅力的
ウィリアム・ギブスンの短編集。読みにくさやアイデアの消費不足は気になるが、鮮烈なフレーズが次々に堆積していく感触はある。これが後の『ニューロマンサー』でサイバースペースという巨大な概念へ結実していくのか…という予感を感じさせてくれる一冊
ひさびさに読んだけど、いやーやっぱりすごい小説!すっかりのめり込むようにして読んだ。とにかく全編通して乾いていて不気味で、でも同時に混沌とした美しさが溢れてもいる。舞台は最終戦争後の荒廃しきった地球。バウンティ・ハンターのリック・デッカー…
妻子を失った男を救った一本の無声映画。それは謎の失踪を遂げた監督、ヘクター・マンの手によるものだった。やがて、作中作は相互に結びつき、物語と現実が奇妙に交錯していく。緻密な構成とオースター的な展開が魅力の一作
アメリカ人作家、リチャード・パワーズが1988年に出した第2作。デビュー作の『舞踏会へ向かう三人の農夫』と同様に長大かつ複雑な小説で、やっぱりむちゃくちゃおもしろい。ひとことで内容やプロットを説明できないところ、ややこしいことば遊びや謎かけを次…
読点のない硬質な文体が描く、テキサス国境地帯の悲劇。運命と不条理を象徴する存在として現れる超冷酷な殺人者シュガーを前に、人は取り返しのつかない選択の結末を、ただ引き受けることしかできない
最近出た改訳版。ハヤカワ文庫では中篇が3作収録されていたけど、この本にはいちばん有名なひとつ目の作品だけが収められている。いま改めて読んでみても、素直にいい小説じゃんっておもえた。人間の少女とエイリアンとの友情、そしてその先に待ち受ける切な…
親友ディーンにひっぱられるように北アメリカ大陸を何度も往復する作家、サル・パラダイスの旅、というか放浪の物語。文章の持つリズムや熱、前のめり感、全力をふりしぼってる感がすばらしくて、冒頭からぐっとひきこまれて読んだ。全編通してとにかくテン…
「いかにして役立たずの人間を愛するか?」大富豪エリオットの奇行を通して、人間を「価値」や「生産性」で測る社会の病理をシニカルかつ切実に描き出した一冊を読む
1985年に発表された、ドン・デリーロの出世作。ボードリヤールが言うところの、「ハイパーリアルとシミュレーションの段階」にあるアメリカをポストモダン風の皮肉で描いた、なんてまとめられそうな感じの小説だ。主人公のジャック・グラドニーは、アメリカ…
うーん、オースターの小説にしては少し物足りなかったかも。俺がオースターの作品でおもしろいとおもうのは、(『偶然の音楽』とか、『ムーン・パレス』みたいな)“肉体/精神的にぎりぎりの極限状態におかれた主人公の思考がスパークして、なんだかよくわか…