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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学-アメリカ文学

『モデル・ビヘイヴィア』/ジェイ・マキナニー

ジェイ・マキナニーの98年作。登場人物たちの会話やら品評やらのシニカルさと、その裏に潜んだナイーブさとが売りのマキナニーだけど、本作でもそれは変わらない。プロット自体は単調で、どちらかと言えば退屈なくらいなのに、なんとなくずんずん読めていっ…

『愛のゆくえ』/リチャード・ブローティガン

ちょっと変わった「図書館」に住み込みで働いている「私」を主人公にした、ブローティガンにしてはわりと長めの小説。全体に穏やかで、ゆったりとした時間の流れを感じさせる作品だけど、とくに物語前半の、「図書館」の描写が印象的だった。まるで世界の果…

「クリスマスの思い出」/トルーマン・カポーティ

きのう、ずいぶんひさしぶりにカポーティの「クリスマスの思い出」を読んだのだけど、うわっ、これ、こんなにぐっとくる物語だったっけ!?と驚いた。この作品を俺は少なくとも3回は読んでいるのだけど――1回目は中学か高校の頃、2回目はこの本(村上春樹訳の…

『オラクル・ナイト』/ポール・オースター

出ればどうしたって買ってしまう、オースターの新刊。新刊と言ってもじつは2003年作で、翻訳が出るまでに意外と時間がかかってるんだなーと改めておもった。長い病からようやく回復した主人公は、何気なく入った文房具屋で青い表紙のノートを買う。彼はその…

『ロング・グッドバイ』/レイモンド・チャンドラー

じつはレイモンド・チャンドラーって初めて読んだのだけど、名作の誉れ高い小説だけあってかなりたのしめた。村上春樹も「訳者あとがき」で、本作の素晴らしさをものすごく熱く語っていて、それもなかなかおもしろい(っていうか、「訳者あとがき」だけで40…

『隣の家の少女』/ジャック・ケッチャム

最近映画化されたこともあって、何かと話題の『隣の家の少女』。まあ正直言って、おもしろい小説、たのしい読書というわけにはいかなかったけれど、一息で読ませてしまうような牽引力を持った作品だった。

『宇宙舟歌』/R・A・ラファティ

ホメロスの『オデュッセイア』を下敷きにした、奇想天外でクレイジー、危機また危機って物語のくせにとにかくドキドキさせられることのない、脱力SF。なのだけど、それでいて延々と読んでしまうようなおもしろさもちゃんとあって、頭のよさとセンスのよさを…

『水と水とが出会うところ』/レイモンド・カーヴァー

もう何もかんがえたくない、何もしたくない。だってもう眼はしばしばするし、首はぐきぐき、頭の奥のほうなんかじわじわと痺れてきてる、って状態でオフィスを出るこんな夜は、どうしても肉が食べたくなってしまう。中央線を降り、駅前の商店街を歩いてねぎ…

『イー・イー・イー』/タオ・リン(その2)

『イー・イー・イー』はシニカルかつセンシティブな雰囲気を持った小説だと先日書いたけれど、それと同時に、超くだらないオフビートでダウナーなギャグをちょいちょいかましてくる作品でもあった。もうほんとどうでもいいけど、でも妙におかしい、って箇所…

『イー・イー・イー』/タオ・リン

大学を無事に卒業して一度はちゃんと就職したもののすぐに辞めてしまい、ドミノ・ピザでだらだらと働きながら、いかんともしがたい倦怠感や寂しさ、ネガティブ感をいつもいつももてあましているフリーターのアンドリュー@フロリダの物語。

『ザ・ロード』/コーマック・マッカーシー

何らかの理由によって破壊しつくされ、荒廃しきった近未来の世界を舞台に、父と少年、2人のあてのない旅のようすが描かれる。マッカーシーの小説ってわりと宗教的っていうか、神とか運命のような人知を超えたところにある力について触れられていることが多い…

『流れよわが涙、と警官は言った』/フィリップ・K・ディック

タイトルのかっこよさに負けず劣らず、内容もじつに素晴らしいディックの74年作。ある朝、TVスターの男(ジェイスン・タヴァナー)が目を覚ますと無名の一般人になっていた、っていういかにもSF的な世界の話であり、その男を追う警察本部長(フェリックス・…

『移動祝祭日』/アーネスト・ヘミングウェイ

パリで過ごした若かりし日々のことを回想しつつ綴った、ヘミングウェイの遺作エッセイ。奥さんとつつましいながらも幸福な暮らしを送っているようすや、パリの街の描写がもうひたすらに輝きまくっていて、とにかく眩しいとしか言いようがない一作だ。

『老人と海』/アーネスト・ヘミングウェイ

なんとなくヘミングウェイの文章が読みたくなって、実家から持ってきた文庫を開いた。もともとは親父の本なのだけど、妙なところに鉛筆で線が引いてあったりなんかして、ちょっとたのしい読書だった。 文章はあくまでもハードボイルドで、つまり登場人物が自…

『カウント・ゼロ』/ウィリアム・ギブスン

カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF)作者: ウィリアム・ギブスン,黒丸尚出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1987/09メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 69回この商品を含むブログ (35件) を見る『ニューロマンサー』に続く、スプロール3部作の2作目。『ニューロ…

『ニューロマンサー』/ウィリアム・ギブスン

「サイバースペース」ってことばを発明したウィリアム・ギブスンの長編第一作目にして最も有名な作品。以前読んだときは、あまりの文章のわかりにくさに途中でくじけてしまったのだけど、短編集『クローム襲撃』を読んでから再挑戦してみると、わりにスムー…

『クローム襲撃』/ウィリアム・ギブスン

最近、いわゆるサイバーパンクの原点、っていうので超有名な『ニューロマンサー』を読んでいたのだけど、文章のあまりの読みにくさに挫折してしまい、じゃあ先に短編でも読んでみようか、とおもってこれを借りてきた。 で、ちょっとおもったんだけど、ギブス…

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』/フィリップ・K・ディック

ひさびさに読んだけど、いやーやっぱりすごい小説!すっかりのめり込むようにして読んだ。とにかく全編通して乾いていて不気味で、でも同時に混沌とした美しさが溢れてもいる。舞台は最終戦争後の荒廃しきった地球。バウンティ・ハンターのリック・デッカー…

『幻影の書』/ポール・オースター

最近翻訳が出た、ポール・オースターの2002年作。飛行機事故で妻と2人の子供を失い、生きる気力をすっかり無くしていたデイヴィッド・ジンマーを救ったのは、ある一本の無声映画だった。映画の主演であり監督でもある人物、ヘクター・マンは過去に謎の失踪を…

『囚人のジレンマ』/リチャード・パワーズ

アメリカ人作家、リチャード・パワーズが1988年に出した第2作。デビュー作の『舞踏会へ向かう三人の農夫』と同様に長大かつ複雑な小説で、やっぱりむちゃくちゃおもしろい。ひとことで内容やプロットを説明できないところ、ややこしいことば遊びや謎かけを次…

『血と暴力の国』/コーマック・マッカーシー

やっぱりマッカーシーの小説は圧倒的におもしろい!読点やかぎ括弧のない硬質な文章がとにかくかっこよくて、そうそう、小説を読むよろこびってまずはこういうところにあるんだよなー、なんておもいつつ読んだ。今作にも、マッカーシー作品の特徴、すなわち…

『たったひとつの冴えたやりかた』/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

最近出た改訳版。ハヤカワ文庫では中篇が3作収録されていたけど、この本にはいちばん有名なひとつ目の作品だけが収められている。いま改めて読んでみても、素直にいい小説じゃんっておもえた。人間の少女とエイリアンとの友情、そしてその先に待ち受ける切な…

『オン・ザ・ロード』/ジャック・ケルアック

親友ディーンにひっぱられるように北アメリカ大陸を何度も往復する作家、サル・パラダイスの旅、というか放浪の物語。文章の持つリズムや熱、前のめり感、全力をふりしぼってる感がすばらしくて、冒頭からぐっとひきこまれて読んだ。全編通してとにかくテン…

『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』/カート・ヴォネガット・ジュニア

1960年代のアメリカ中西部。先祖からの莫大な遺産を相続した大富豪、エリオット・ローズウォーターが、ありとあらゆる貧しい人々に金をじゃんじゃん分け与えまくる物語。エリオットは博愛主義的な人物って言ったらいいのか、貧しい人たちに同情して、金銭的…

『ホワイト・ノイズ』/ドン・デリーロ

1985年に発表された、ドン・デリーロの出世作。ボードリヤールが言うところの、「ハイパーリアルとシミュレーションの段階」にあるアメリカをポストモダン風の皮肉で描いた、なんてまとめられそうな感じの小説だ。主人公のジャック・グラドニーは、アメリカ…

『ティンブクトゥ』/ポール・オースター

うーん、オースターの小説にしては少し物足りなかったかも。俺がオースターの作品でおもしろいとおもうのは、(『偶然の音楽』とか、『ムーン・パレス』みたいな)“肉体/精神的にぎりぎりの極限状態におかれた主人公の思考がスパークして、なんだかよくわか…

『また会う日まで』/ジョン・アーヴィング(その2)

アーヴィングの『また会う日まで』の主人公、ジャック・バーンズの幼い頃からの口癖に、「おー」というのがある。ジャックの「おー」は、周囲の世界に対する驚きや、自分の働きかけとはほとんど関係なく世界が動いていくことへの無力感みたいなものを表現し…

『ポスト・オフィス』/チャールズ・ブコウスキー

ブコウスキーの長編。ひたすら過酷なうえに退屈すぎる公務員の仕事と、酔っぱらいの日々がだらだらと描かれている。内容はだらだらなんだけど語り口は軽快で、テンポよく読み進めていける。ブコウスキーの小説って、なんかもう全部同じだよなー、って改めて…

『母なる夜』/カート・ヴォネガット・ジュニア

第二次大戦中、ドイツでプロパガンダ放送に従事していたアメリカ人の男の物語。彼はナチであると同時にアメリカのスパイでもあって、放送によって本国に情報を送り出してもいた。戦後、男はドイツにもアメリカにも居場所を失い、ニューヨークのグレニッチヴ…

『タイタンの妖女』/カート・ヴォネガット・ジュニア

これはすばらしい小説だった!!物語はかなりスラップスティックな感じで、むちゃくちゃな状況にひたすら翻弄されつづける人間の姿が皮肉っぽく描かれている。ただ、ヴォネガットはそれをくだらない、って言うんじゃなく、愛情を込めた視線で見つめているか…