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『誰がために鐘は鳴る』/アーネスト・ヘミングウェイ

誰がために鐘は鳴る(上) (新潮文庫)

誰がために鐘は鳴る(上) (新潮文庫)

誰がために鐘は鳴る(下) (新潮文庫)

誰がために鐘は鳴る(下) (新潮文庫)

ヘミングウェイの長編。1930年代のスペイン内戦を舞台に、共和国側の義勇兵としてゲリラ部隊を率いるアメリカ人、ロバート・ジョーダンの4日間を描く。ジョーダンの任務はグアダラマ山脈にある橋の爆破だけれど、頼りにできるのは10名にも満たない地元のスペイン人ゲリラのみ。作戦の成功確率は相当に低そうだと言わざるを得ない。そんななか、ジョーダンはかつて反乱軍に囚われていたという若い娘、マリアと出会い、たちまち恋に落ちるのだが…!

物語の主軸になっているのは、橋の爆破ミッションと、死を目前にした状況におけるジョーダンとマリアの恋、というふたつであり、本作のほとんどは、これらに関する人物たちの会話とジョーダンの独白――思索的な自分内での会話――に割かれている。とにかくみんなよく喋るのだ。この延々と続く会話が登場人物たちにリアルな実在感を与えているのは確かなのだけれど、どうにも長すぎ、単調すぎて、俺は退屈に感じてしまった。長編小説(文庫上下で1,000ページほどもある)を牽引していくのがほぼ会話文のおもしろさのみ、っていうのはちょっときついな、とおもってしまったのだった。

もちろん、ヘミングウェイだけあって、一文一文はいちいち上手いしおもしろさもある。たとえば、こういう文章には、彼の美点がはっきりと現れているとおもう。

おれたちのようなパルティザンはつねに移動しているし、任務遂行後、現場に居残って敵の仕返しにあうこともないから、作戦の最終的な決着がどうついたのか、知ることはない。任務を遂行する際は、農夫の一家の世話になる。夜間に訪れて、一家と食事を共にする。昼間は身を隠して、翌日の晩には消えている。任務を果たして撤退するのだ。そして、しばらくしてその地を再訪すると、農夫の一家がその後銃殺されたことを知らされる。事の次第ははっきりしている。(p.275−276)

短い文章で淡々と事実だけを記しているのだけれど、感情を揺さぶるような物語性、ウェットな感性が内包されている。こういう、シンプルにして中身のぎゅっと詰まった文章がヘミングウェイの強みだろう。ただ、ここで大胆に省略されている「事の次第」やそれに関する「おれ」の感傷などといったものを隅から隅まで書き尽くしたとしても――それがまさに本作で行われているようなことなのだけれど――それがこの短い文章以上に豊かなものになることはない。書き尽くされてしまった後では、読者には何らの想像の余地も残されていないからだ。

やはりヘミングウェイの強みというのはとにもかくにも文体であり、その文章の切れ味なのであって、やはり短編の方がその美味しいところだけを味わえるのだろう、と改めて感じさせられた一冊だった。