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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

2015-01-01から1年間の記事一覧

『かもめ』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

ニーナとトレープレフの立場というのは、物語の開始時点ではほぼ同等のものだと言っていいだろう。彼らはふたりとも、何も持っておらず、ただ淡い希望だけを胸に、あいまいな夢を見ている若者にしか過ぎない。そんなところに、トレープレフにとっての乗り越…

『三人姉妹』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

『桜の園』で競売の場面が描かれないのと同様に、『三人姉妹』においても、ドラマを推進していく事件そのものが舞台上で描かれることはほとんどない。第三幕の火事や、第四幕のトゥーゼンバフの死は、あくまでも背景に位置するもので、人物たちはその状況に…

『桜の園』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

本作でまずおもしろいのは、誰も本気で「桜の園」を守りたい、とはおもっていなさそうなところだ。いや、正確には、「桜の園」を守るための具体的な行動を誰ひとり取ろうとしない、というところだ。ラネーフスカヤも、その兄ガーエフも、娘のワーニカとアー…

『オネーギン』/アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン

本作の主人公、エヴゲーニイ・オネーギンは、19世紀ロシア文学によく登場する「余計者」の原型、と言われているけれど、その造形はいまでもじゅうぶんに興味深いものだ。知識だけはあるが、それを生かすための興味や活力、指針といったものを持っていないが…

『ひとさらい』/ジュール・シュペルヴィエル

シュペルヴィエルの長編。以前に読んだ『海に住む少女』が完璧に素晴らしい作品だったので、それと比べてしまうとやはりどうしても落ちる、という印象はあった。でも、これはこれでなかなかおもしろい小説だ。 物語の主人公は、ビグア大佐という男。父性溢れ…

『女のいない男たち』/村上春樹

村上春樹の2014年作。短編集としては、前作『東京奇譚集』から9年ぶりの新作ということで期待して読んだのだけれど、これは素晴らしかった。『1Q84』あたりから、村上の作品の雰囲気はそれまでよりぐっと静謐なものになっているように感じられていたのだけれ…

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

ずいぶん以前に、早稲田松竹にて。ディカプリオのドヤ顔がたくさん見られて――しかしこの人は本当にいろいろなドヤ顔を持っている!――それだけでもおもしろい、マーティン・スコセッシ作のブラックコメディ。これもまた実話をもとにした作品なのだけれど、『…

『ブリングリング』

ずいぶん以前に、早稲田松竹にて。LAに暮らす裕福な家庭の子供たちが、夜な夜なセレブの空き家に忍び込み、窃盗を繰り返す…という、本当にそれだけの話(実話)を描いた作品。「シャネルのバッグが欲しいの」→「そういえば、リンジー・ローハンは今晩パーテ…

『知識人とは何か』/エドワード・W・サイード

サイードによる知識人論。BBC放送向けに行われた講演をまとめたもので、シンプルな主張がコンパクトにまとめられている。 サイード曰く、知識人とは、権力や伝統、宗教やマスメディアや大衆や世間に迎合せず、また、利害や党派性や原理主義や、専門家の狭量…

『写字室の旅』/ポール・オースター

オースターの2007年作。シンプルな四角い部屋のなかに、老人が一人。彼には何の記憶もない。部屋の天井には隠しカメラが設置されており、その姿を撮影し続けている。やがて、彼の元をさまざまな人物が訪ねてくるのだが…! 長編と呼ぶには分量少なめの本作は…

『天使の囀り』/貴志祐介

Kindleにて。手堅いサスペンス・ホラーものを得意とするエンタメ作家、貴志祐介だけれど、今作は怖いというよりも気持ち悪い、それも超絶気持ち悪い一作だと言っていいだろう。何が気持ち悪いのか、ってところは本作のサスペンス要素に大きく絡んでくるので…

「クロイツェル・ソナタ」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)作者: トルストイ,望月哲男出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含むブログ (35件) を見る 嫉妬がもとで妻を刺し殺すに至った、ある…

「イワン・イリイチの死」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

舞台は19世紀ロシア。世俗的な成功を手にした中年裁判官、イワン・イリイチという男がふとしたきっかけで病に倒れ、数ヶ月の苦しい闘病の末に死んでいく…という一連の流れを描いた物語だ。 イワン・イリイチという男は、ごく平凡な性格と人生観とを持った主…