本
ベルンハルト・ケラーマン『トンネル』書評。手塚治虫も激賞した1913年作。大西洋を横断する海底トンネルの建設に執念を燃やす男と、資本と労働に呑み込まれる人々を描く、エンタメ性と批評性を兼ね備えた傑作
乗代雄介『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』読書感想。膨大な蓄積の中から「オリジナリティ」の正体を問う一節を引く。表現者は外部の影響を合成した「キメラ」でしかない。全てが外から来たことを自覚し、不格好さを抱えたまま書く、その覚悟を考える
鶴見済『0円で生きる』読書感想。労働と消費のループから抜け出し、お金への依存度を下げることは可能なのか。社会の仕組みに抗いつつ、「小さくても豊かな」経済圏を探る一冊。お金との適切な間合いを測ることを、一つの抵抗の形として考える
ルイジ・ギッリ『写真講義』書評。写真とは何かを問い直す一冊。日常的な被写体、ミニマルな構図、平面的な表現——静謐な彼の写真は「絵画的」と評されるが、それは現実とイメージの「均衡点」を探り、世界を問い直す試みである
菅付雅信『インプット・ルーティン』読後メモ。質の高いアウトプットのために大量・高精度なインプットを習慣化せよ、という極めてシンプルな主張。内容に新鮮味はないが、サボりがちな自分に活を入れてくれる「正論」として機能する一冊だった
成毛眞『39歳からのシン教養』読後メモ。「読書するよりググれ」と主張する一冊。30代半ば以降は効率的な情報収集こそが重要だというが、本書で提唱される「シン教養」とは、本当に教養と呼べるものなのだろうか?という疑問は残る
ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』書評。「読んだ/読んでいない」という二分法を疑い、批評とは本についてではなく自分自身について語ることだ、と説く一冊。一見挑発的だが、読書や批評の本質を問い直す姿勢は驚くほど誠実
芥川龍之介「芋粥」書評。五位が「芋粥を飽きるほど飲んでみたい」という夢を失う哀しみを描いた短編。彼の夢は、叶えるためのものではなく、憧れ続けるためのものではなかったか。夢というのは、必ずしもそれを叶えられる強者のためだけのものではないはずだ
芥川龍之介「袈裟と盛遠」書評。愛という名のエゴイズムが引き起こす、主体性の完全な放棄と自己否定の行方には何があるのか。殺人と死へと突き進む男女の心理を掘り下げ、倫理も理性も超えた「抗いがたい感情」の必然性を読み解く。神話的な美しさのある短編
山本耀司『服を作る』読書感想。「まじめな生活をしているだけではだめ」と語る山本の、世の中のモラルや既成の美意識に対する反骨精神に惹かれる。社会が求める「正しさ」から外れ、孤独と友達になりつつ、自分なりの生を生き切るための意志を再確認する一冊
下重暁子『持たない暮らし』読書感想。単なるミニマリズムではなく、個の確立を前提とした暮らし方を説く。自分なりの価値観こそがその人の値打ち。ものを書くことが「自分への執着」であるなら、書くのを億劫に感じていた今の自分は何を失いかけていたのか
芥川龍之介『羅生門』書評。下人が得た「或勇気」の正体とは何か。ラカンの欲望論を補助線に、老婆の自己正当化が下人に与えた「大義」と生存論理への転換を読み解く。既存の規範が崩壊した世界で、個が新たな規範を見出していく物語としての再解釈
宮本輝『泥の河』読後メモ。高度経済成長直前の大阪を舞台に、ねっとり湿った夏の空気や貧富の明暗を鮮烈に描く短編。同じ子供でも属する世界が違うという哀しい真実が、米櫃に手を入れ「温い」「冷たい」と交わされる数行の会話から残酷なまでに立ち上がる
スージー・ロトロ『グリニッチヴィレッジの青春』読書感想。「フリーホーイリン」のジャケ写で有名なボブ・ディランの恋人が、60年代の熱狂と自身の葛藤を綴る一冊。天才の「弦の一本」になることを拒み、自らの人生を歩もうとした彼女の真摯な言葉が魅力的
エトガル・ケレット『あの素晴らしき七年』感想。軽快さの裏に、イスラエルの現実とホロコーストの影を感じさせる、掌編エッセイ集。空襲警報の中、家族がくっつき合う「パストラミ・サンドイッチごっこ」の話など、困難の中でもユーモアを忘れない姿が魅力的
水野和夫『資本主義と不自由』書評。搾取による「成長」は限界に達し、「帝国」化が進行する現在は、近代から次のフェーズへの「過渡期」だと言える。この時代をいかに軟着陸させるか、その姿勢を考える一冊を読む
イレーヌ・ネミロフスキー『チェーホフの生涯』書評。死を予感する作家が戦時下に辿り直した文豪の軌跡。医師のような冷徹な診断と、深い思いやり。人生に意味は見出せずとも、魂を練り直すことはできる。絶望の淵で綴られた言葉から、生きるための諦念を読む
アンネ・ジーネの写真集『Book Of Plants』書評。500ページ超、淡々と並ぶ植物の断片。記録写真が膨大なコレクションとして結実したとき、鮮やかな美のイメージが立ち上がる。ミクロとマクロを往来し、世界を肯定する歓びに触れる感覚を探る
テリ・ワイフェンバック写真集『Between Maple and Chestnut』書評。幻想的なボケと溢れる光が、米国の美しい郊外を映し出す。なぜ未経験の風景に懐かしさを覚えるのか。失われた中産階級への郷愁を軸にした、夢のような一冊を読む
アガサ・クリスティ『秘密機関』読書感想。長編第2作にして、トミー&タペンス初登場のスリラー。前作『スタイルズ荘』とは異なる、古き良き冒険活劇的な作風で、バンドのデビューアルバムのような若さと陽性の輝きが素敵な一冊だった
アインシュタインとフロイトの往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか』書評。人間の「憎悪の本能」を欲動理論から読み解き、文化の発展によって戦争を拒否する身体が生まれる可能性を探る一冊。だが、その希望はどこまで現実的なのか
チャールズ・ワッツ『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』書評。ヴェンゲル後の混乱から、アルテタがいかにアーセナルを再建したかを描く。彼が示した信念と規律こそがマネジメントの根幹であり、チームとサポーターの絆を取り戻すために必要だった
ガーナ系アメリカ人作家の短編集『フライデー・ブラック』を読む。理不尽な差別に対し「ブラックネス」をコントロールし、「腹が立ったら微笑む」ことを強いられる主人公。その抑圧された怒りのエネルギーを、読者は疑似体験させられる。現実と地続きのブラ…
アニー・エルノーの自伝的な作品。若くして離婚し、パリでひとり暮らす「私」は、かつて東欧の若い外交官A(妻子持ち)と不倫の関係にあった。その当時に感じていた情熱(パッション)について振り返る、という物語。 自身の不倫が題材ではあるけれど、それ…
立花隆や福田和也が提唱する、速読・多読といったものに対して、ほとんどの人は(彼らのような職業上の必要性に駆られているのではないのだから)そういった読書法は必要ではないだろう、と主張する一冊。 たとえば立花の言う、「本を沢山読むために何より大…
歴史研究部に所属する高校2年生の「ぼく」は、部活の研究で皆川城址を訪れた際、怪しげな中年の男に出会う。こてこての大阪弁がいかにも胡散臭い男だったが、その異様な博識は「ぼく」を否応なしに惹きつけていくのだった。男は、「ぼく」が入手した旧家の蔵…
轡田隆史『1000冊読む!読書術』。1000冊読むための方法は語られていないが、読み書きをスポーツと同じ「筋肉労働」と捉えているところが特徴的。一日休めば、力はすぐになまる。読書力を維持し鍛えるためには、日々継続する他に道はない、と説く一冊
NHKの番組の内容を新書化した一冊。1,2章には、マルクス・ガブリエル訪日時の発言や講義(哲学史の概説と、その流れのなかに位置づけられる新実在論の解説)を文字起こししたものが、3章には、ロボット工学科学者の石黒浩との対談が収められている。元がテレ…
ベンジャミン・フランクリンの古典『若き商人への手紙』を読む。数多のビジネス書・自己啓発書の源流とされる本書は、いかにしてわれわれを脅し、「資本主義の奴隷」たることを強いてきたのか?
作家/イラストレーターの著者が、パリの道ばたで出会ったすてきなおじさんを集めた一冊。おじさんのキュートなイラストと、おじさん自身の語りを中心とした軽めのエッセイが掲載されている。おしゃれなおじさん、アートなおじさん、おいしいおじさん、移民…