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「憤死」/綿矢りさ

ちょっとまえの『文藝』にて。綿矢の作品のタイトルはなかなか印象的なものがおおいのだけど、今回も、おーそうきたか…っておもわせるようなインパクトのあるタイトルだ。"憤死"するのは、物語の語り手である主人公(♀)の女ともだち、佳穂。彼女は、彼氏に別れを告げられた怒りにまかせ、やつあたり気味に自宅の3階からジャンプ、左足を骨折するのである(よくわからないけど、なんかすごい!)。主人公の"私"は、そんな佳穂に対して、なかなかにきびしい評価を下している。

私とこのような形での久々の対面に、若干戸惑っているのか、佳穂は炒めるまえのソーセージに似た色と太さの指で、落ち着きなくシーツをいじっている。小学生の頃と変わらない、短い爪と丸みのある指先。

佳穂はもう、昔のように妄信的に自分の美しさを信じていないようだ。年相応と呼ぶにはまだ未熟なものの、わずかな含羞を人並みに持ち合わせてしまったのか。身の程知らずで現実を見ないところが、長所だったのに。

小学校の頃の佳穂は非常に個性的で、私はそんな彼女が好きではなく、むしろ嫌いで、一緒にいるのは彼女から得られる利益のみが目的だった。

なんつーかもう、いいたい放題って感じだ。とはいえ、佳穂の方にしてみても、"私"を自分より下に見ているのはまちがいのないところで、ふたりはおたがいに牽制し合いながらコミュニケーションを成立させている、ってところがおもしろい。仲がいいとかわるいとかいう言い方ではしっくりこないような、ちょっとねじれた関係性だ。自意識過剰気味な"私"と無意識過剰な佳穂とのあいだに存在する、ぴりぴりする一歩手前の微妙な感覚、ひとことでは言い表せない空気みたいなものが作品の中核に置かれているわけで、その微妙さ、感覚のえもいわれなさを切り取ってみせることこそが、本作の狙いなのだろうとおもわれる。

本作は"私"の一人称で書かれてはいるけれど、作者の視線自体は"私"からも佳穂からも少し距離を取ったところにあり、それが作品の雰囲気をどこかクールなものにしている。いままでの綿矢の作品の多くについても、やはりそういう傾向があったとおもうのだけど、そういう、どこか自分を安全なところに置いたような、登場人物を冷静に客観視してますよ、っていうようなスタンスをかなぐり捨てた、もっと無防備で勢いのある作品も読んでみたいなーとはおもった。

文藝 2011年 08月号 [雑誌]

文藝 2011年 08月号 [雑誌]