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『甲賀忍法帖』/山田風太郎

山田風太郎ってはじめて読んだのだけど、これって忍者版のジョジョだったんだなー、とおもった。たとえば、こんなところがとてもよく似ている。

・いろいろな人知を超えた能力(忍法)を持った忍者たちが、ふたつの陣営に分かれて争う。
・登場人物は大勢いるけれど、いざ戦う、ってときには大抵は1対1(多くても2対2くらい)。
・能力発動時の描写は、大抵ちょいグロい(全身から血が噴き出る能力とか、食道に隠し持った槍を口から勢いよく発射する能力とか…)。
・絶対最強、っていうような能力はなくて、お互いの能力を潰し合うための駆け引きに重点が置かれている。
・あるキャラと対峙していたときには圧倒的な強さを見せつけていたはずのキャラが、意外な相手に簡単にやられてしまったりする。

…うーん、まさにジョジョって感じだ。あと、話の大筋、背景なんかはかなりざっくりとしていて、戦闘シーンがほとんど、ってところなんかもよく似ている。

や、上記のようなことは、両作品を読んだことのある人なら誰でもしっていることだとはおもうのだけど。ジョジョのあの作風は、こういうところからも影響を受けてたんだなー、と改めて気づかされたのだった。違いは、山田風太郎の方がいくぶんエロい、ってところくらいじゃないだろうか。例えばこんなところは、いかにも伝奇小説って感じがする。

薬師寺天膳は、陽炎の襟をかきひらき、裾をかきひらいた。風にあおられて横になびくあぶら火に、女の肌は雪のように白くひかった。すでに陽炎はあたまをがっくりとうしろにたれ、せわしく息をきざみながら、ほそくくびれた胴は弓なりになって、天膳の指の愛撫にまかせている。
「陽炎、陽炎」
天膳は、陽炎が敵であることを忘れた。いや、陽炎は自分を味方と思っているはずだが、じぶんが化けていることも忘れた。彼は忍者たる意識をすらにごらせて、ただ一匹の獣と化して、この美女を犯しはじめた。
陽炎はもだえて、足で天膳の胴をまいた。腕が天膳のくびにまきついた。ぬれて、半びらきの唇が、天膳の口すれすれに、こころよさにたえかねるようなあえぎをもらした。甘ずっぱい杏の花に似た香りが、天膳の鼻口を包んだ。――とみるまに、女の方から狂的に天膳の口に吸いついてきて、やわらかにぬれた舌がすべりこんできた。
――一息――二息――充血していた薬師寺天膳の顔から、すうと血の気がひいて、ふいに手足がぐたりと投げ出された。そのからだをはねおとして、陽炎は立ちあがった。
ニンマリとして、陽炎はしばらく天膳の姿を見おろしていたが、やおら天膳の立ちをぬきはらい、左右の頸動脈を切断してから、その血刃をひッさげてあるき出した。(p.282,283)

まあともあれ、俺はそこそこたのしく読むことができた。ただ、世間で言われている程むちゃくちゃおもしろい、とまではおもえなかったのも正直なところ(忍者の数が多過ぎて、描写が散漫になっているきらいがあるようにおもった)。いちおう、もう何作品かはチェックしてみようかとおもう。