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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学-日本文学

『1Q84 BOOK1・BOOK2』/村上春樹

読み終わってからもうほとんどひと月が経つのだけど、どうにもうまく感想がまとまらなくて、日記に書くことができないでいた。でもそろそろ何か書き残しておかないと忘れてしまうかもなので、とにかくがんばって何かしら書いてみることにする。あるいはこの…

『君は永遠にそいつらより若い』/津村記久子

芥川賞作家、津村記久子のデビュー作。序盤は卒業をひかえた大学4年生の冴えない女子、ホリガイのゆるい日常が冷めた言葉でつづられていく感じなのだけど、中盤以降はリストカット、虐待、自殺などなどヘビーな問題が次々に浮かび上がってくるようになる。俺…

『カツラ美容室別室』/山崎ナオコーラ

ひさびさに本棚を整理していたら出てきた『文藝』の2007年秋号に掲載されていたもの。もういまでは単行本も出版されている。見つけた『文藝』はぱらぱらっと見てすぐに捨ててしまうつもりだったのだけど、予想外に気に入ってしまって、つい一息で読んでしま…

『光車よ、まわれ!』/天沢退二郎

小説家にして詩人、そして宮沢賢治研究者でもある天沢退二郎によるファンタジー。巻末の“解説”で三浦しをんがこの作品に対する熱いおもいをほとばしらせているけど、たしかにこれは一風変わった、でも児童文学の良質なエッセンスが詰め込まれた小説だとおも…

『LOVE』/古川日出男

三島由紀夫賞受賞作。現代の東京を舞台とした、短編っぽい雰囲気を持った4つの物語と4つの間奏からなる小説だ。時間のあるポイントに的をしぼり、そこでの人々の刹那的な邂逅を描いた群像劇。手法的には、作中の人物が2人称の語り手として登場することだった…

『ボディ・アンド・ソウル』/古川日出男(その2)

ボディ・アンド・ソウル (河出文庫)作者:古川 日出男河出書房新社Amazon『ボディ・アンド・ソウル』の語り手は、作家本人をおもわせるフルカワヒデオ、であるので、かなりストレートに気持ちや意見を吐露しているように感じられる文章が多い。古川日出男の他…

『ボディ・アンド・ソウル』/古川日出男

小説家であるフルカワヒデオ自身を語り手として、日常のいろいろ――食べ、飲み、散歩し、妄想し、語り、書き、読み――がどんどん描かれていく小説。その語りはひたすらに饒舌で、とにかくエネルギッシュだ。書かれている内容はいっけん日記風でありながらも、…

『聖家族』/古川日出男

これはすごかった!おもしろいとかおもしろくないとか言うよりも、まず、すげえ!って言いたくなる小説。だいいち、分厚すぎるし(二段組みのくせに700ページオーバー!)、細かい特徴、気になる要素を挙げていったらキリがないけど、読んでいくうちに、最早…

『くっすん大黒』/町田康

俺は、メディアに露出多くしている作家、というのをあまり信用しておらず、だからパンク歌手などといった肩書きのついた作家である町田康なんて、どうせパンクと言いつつもその実サブカル好きに媚を売った腑抜け野郎に違いないのであって、自分には関係ない…

『ファミリー・アフェア』/村上春樹

80年代の短編集、『パン屋再襲撃』に収録されている作品。台詞はいちいち気のきいた感じだし、展開もまあ予想から外れることのない、わりとリラックスした雰囲気の短編だ。主人公の「僕」は27歳。何年ものあいだ妹と2人暮らしをしていたのだけど、妹はいつの…

『明け方の猫』/保坂和志

夢のなかで猫になった人間を、その夢の内側から描いた小説。主人公は猫の身体に人間の思考を持っている、って設定だから、猫を描写した小説というわけじゃなくて、記述の仕方が猫的な小説、とか言った方がたぶん近い感じ。人間の感覚・論理と猫の感覚・論理…

『バルタザールの遍歴』/佐藤亜紀

佐藤亜紀のデビュー作。ナチが台頭しつつある二大戦下のヨーロッパを舞台に、オーストリアの没落貴族にしてひとつの肉体を共有する双子、メルヒオールとバルタザールの物語が語られる。肉体はひとつでも、とにかく2人は双子であるので、たとえば二重人格とい…

『窓の灯』/青山七恵

青山七恵のデビュー作。大学を辞めたまりもは、よく通っていたスナック風喫茶店で住み込みバイトとして働きながら、退屈な日々を送っている。最近の日課は、向かいのアパートに越してきた男の部屋を観察、というか覗き見することなのだけど、特に大した理由…

『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』/佐藤友哉

ジャンクな断片をたくさん寄せ集めて無理やり形にしてしまうような強引さ、無秩序だけど勢いがあるみたいなところがこの作家の特徴かとおもっていたのだけど、今作で語られる3つの物語は、いまままでよりずっとていねいに構築されている。そのために、前2作…

『青空感傷ツアー』/柴崎友香

会社を辞めた26歳の芽衣は、6コ下のむちゃくちゃ美人かつわがままな女友達、音生と2人で、大阪→トルコ→徳島→石垣島へとふらふらと旅しつづける。っていう、まあそれだけの話。でも、それだけで十分におもしろいのがこの小説の素敵なところだ。柴崎友香ってい…

『エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室』/佐藤友哉

これも前作と似たような感じ。文章はもうとにかく、ひたすらに薄っぺらい(悪い、ということとは違う)。いじめだったり人食いだったりと、やたらと残酷な行為やグロテスクなシーンが満載でありつつも、薄っぺらな描写はその過激さを軽減しているようでもあ…

『ベルカ、吠えないのか?』/古川日出男

古川日出男の小説の、ケレン味に満ちたキメキメな文章、大仰な感じが俺はどうも得意じゃない。いやー、そんな盛り上がられても…、とかおもっちゃったりして、テンションがうまくついていけないのだ。ただ、これは犬たちを描いた作品だ。犬ってやっぱワイルド…

『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』/佐藤友哉

佐藤友哉のデビュー作。俺はいわゆるメフィスト系の小説っていうのをちょっと苦手にしていて、でも、今より年をとったらさらに手に取りにくくなるに違いないとおもったので…、って、読み始めた動機はあまりポジティブとは言えない感じだったのだけど、これは…

『1973年のピンボール』/村上春樹

何年ぶりかに読み返したけど、うーん、やっぱりこれもいい小説!俺は村上春樹は初期の作品がすきだなー。いろんな意味でイタい感じも含めて。『風の歌を聴け』に続く、「僕」と「鼠」の物語なんだけど、前作と比べるとずいぶん感傷的だし、乾いた感じよりは…

『風の歌を聴け』/村上春樹

高校生のころの俺のバイブルだったこの小説を久々に読み返していたんだけど、自分がこの作品からどれだけあからさまに影響を受け、方向づけられてきていたか、ってことにいまさら気がついて本当にびっくりした。いままで自分の頭でかんがえたことなんて何ひ…

『アクロバット前夜』/福永信

これはおもしろい小説!まず状況のありえない感がおもしろいし、そのありえない状況に対する登場人物の反応のありえなさ、それを描写する文章の視点が変で、ついついわらってしまう。こういうのは、シュールっていったらいいのかな? どうしてこの小説に書か…

『青色讃歌』/丹下健太(その3)

『青色讃歌』の主人公、高橋は就職活動をしている。だから会社に面接を受けに行ったり履歴書を書いたりするところが小説には描かれているんだけど、どうせだったら証明写真を撮るシーンも書いて欲しかったなー、と読みながらかんがえていた。高橋がどこかの…

『青色讃歌』/丹下健太(その2)

前回、あっちとこっちの区分って感覚がうんぬん、みたいな話を書いたけれど、そういうのは、こんな会話によく表れている。 「そういえば、俺そっちに行くことになったから。仕事決まったんで」 自分から大西に対してそんなことを言ったことに高橋は驚いた。 …

『青色讃歌』/丹下健太

第44回文藝賞受賞作。同時受賞の『肝心の子供』が最高だったので、なんとなくあまり期待していなかったのだけど、いやいや、こっちもかなりいい小説だった!一言で言うと、主人公の高橋(28歳・フリーター・♂)の、何でもないような日常を描いた作品、という…

『精霊の守り人』/上橋菜穂子

やや和風な世界観のファンタジー。女用心棒のバルサはふとしたきっかけで、国の第二皇子、チャグムを連れて逃亡の旅をする羽目になった。チャグムには精霊の卵が産みつけられていて、父王からの刺客や、卵を狙う別の精霊も彼らのことを追ってくる。果たして…

『サマーバケーションEP』/古川日出男

ひたすら歩く、夏の一日(とちょっと)を描いた小説。人の顔を見分けることができず、その匂いや体温によって識別する“僕”は、井の頭公園で神田川の源流を発見する。“僕”は、偶然に導かれるまま、多くの人々との出会いや別れを繰り返し、あるときは少人数で…

『青空チェリー』/豊島ミホ

この本の魅力は、どの作品の主人公も、自分の身近にいそうな、いまっぽいリアリティを持っている、ってことに尽きるようにおもう。それは、実際に小説で描かれているようなしゃべり方をするやつがいるとか、描かれているようなことをしちゃう子がいるとか、…

『肝心の子供』/磯崎憲一郎

もうあちこちで散々言われていることだとおもうけど、この小説はすごい!!すっごいおもしろい!!おもしろいことだけは、まったく明白なのだけど、でも、そのおもしろさとはどういったものなのか、どうにもうまく表せない。たぶん、そこがすごい。いったい…

『ゴッドスター』/古川日出男

おもしろかった!この小説では、主人公の女性の視点から、すべての事象が語られている。そのことばの連なりにはここちよいグルーヴ感があって、読んでいて、ごく単純にたのしい。ことばのリズム自体は、するするっと読めていってしまうような感じなのだけど…

『「三十歳までなんか生きるな」と思っていた』/保坂和志

「三十歳までなんか生きるな」と思っていた作者:保坂 和志草思社Amazonこの本のなかに、 死者を丁寧に葬り、きちんと喪に服すというのは、人間が人間として存在するための条件なのだ。人間はただ生きているだけではなくて、死んだ後も含めた漠然とした広がり…