Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想など。

『夜間飛行』/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

訳者の二木麻里は、「解説」中で、サン=テグジュペリの資質を指して、「無言の領域で豊かに語る、本質的に寡黙な詩人」と述べているが、本作でも、まさにその寡黙さが全編を覆い尽くしていると言っていいだろう。リヴィエールをはじめとする登場人物たちは、…

『知的トレーニングの技術 [完全独習版]』/花村太郎

「世界の動きが「読める」ようになりたいし、人生を「意味づける」ことができるようになりたい」人のための、「自分なりに世界の知を獲得するための素朴なカリキュラム」としての知的トレーニング、独習術について語っている一冊。 なので、「自分の全生涯に…

『本は10冊同時に読め!――本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術 』/成毛眞

お金に支配され続ける「働きアリ」ではなく、自分の頭で考えて行動する「クリエイティブ・クラス」になれと説く、成毛眞の自己啓発/読書術系エッセイ。本を読まない人は人と同じことしかできず、真に成功することはできない、だとか、本を読まない者はサルで…

『わたしの外国語学習法』/ロンブ・カトー

5ヶ国語の同時通訳者、10ヶ国語の通訳者、16ヶ国語の翻訳者だったというハンガリー人の著者による、自伝的な外国語学習法エッセイ。これだけの外国語をほとんど自国内で学習したというのだから、さぞかし超人的な勉強法が展開されているのかとおもいきや、好…

『三四郎』/夏目漱石

小川三四郎という青年が熊本の田舎から東京にやって来て、粗忽者の友人や風変わりな先生、謎の女性らと出会う、そのとりとめもない日常を描いた作品だ。扱われるエピソードはどれもごくささやかなもので、まったく派手さはない。三四郎がふらふらとあちこち…

『北斎 富嶽三十六景』/日野原健司 編

本書は、三十六景の作品を一点ずつ見開きカラーで掲載し、それぞれの作品の特徴や用いられている技法、描かれているモチーフや場所、季節などについてコンパクトな解説を加えたもの。文庫サイズとはいえ、絵の美しさはきちんと味わえるし、解説も2ページに収…

『読書する人だけがたどり着ける場所』/齋藤孝

読書術本。齋藤孝による読書術本は何冊か読んだことがあるけれど、どれも基本的には同じ内容で、要は、できるやつになるためには読書しろ!ということが書いてある。 単に本を読み終えるというだけなら、頭を使わなくてもできるけれど、それでは本当に読んだ…

『職業としての小説家』/村上春樹

村上春樹による自伝的な小説家論。どのようにして小説を書くに至ったか、個人的なシステムにしたがって毎日休まず書くこと、書き直すこと、走ること、観察すること、他人の意見について、文学賞について、海外での受容についてなど、過去にもあちこちで少し…

『遅読家のための読書術ーー情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』/印南敦史

ぐずぐず本を読んでは、結局ほとんど忘れてしまう…というのを繰り返す「遅読家」から抜け出し、「週6冊、月25冊、年間300冊の多読生活」を目標に、ビジネス書や新書を多読していこう、という一冊。著者の印南曰く、ビジネス書や新書といった実用書は、「1日1…

『獄中記』/佐藤優

外務省の元主任分析官で、2002年に背任・偽計業務妨害で逮捕された佐藤が、東京拘置所の独房内で記した日記、手紙などをまとめた一冊。全体に流れるしんとした静けさと、そのなかで着実に脈打っている思想の強靭さが印象的だった。 佐藤は、自身が巻き込まれ…

『一流の頭脳』/アンダース・ハンセン

一流の頭脳を手に入れるためにはどうすればいいか…それには運動だ!ということを、じつにさまざまなバリエーションでもって説いている一冊。ストレス、集中力、記憶力、創造性、学力、健康etc.と章立てこそ分かれているけれど、それらすべてにプラスの影響が…

『闘争領域の拡大』/ミシェル・ウエルベック

ウエルベックの小説第一作。この自由資本主義社会において、人間の闘争の領域は、経済領域のみにとどまらず、性的領域においてまで拡大している。経済の自由化を止めることができないのと同様、セックスの自由化もやはり止めることはできず、そこには必然的…

『怒りの葡萄』/ジョン・スタインベック

1930年代、折からの大恐慌に加え、厳しい日照りと大砂嵐が続いたことで、アメリカ中西部の小作農たちの多くは土地を失った。銀行と大地主たちは彼らの土地をトラクターで耕し、資本主義の名の下、合理化を進めていく。土地を追い出され、流浪の民となった彼…

『ホームシック 生活(2~3人分)』/ECD、植本一子

レーベルとの契約打ち切り、アル中、閉鎖病棟入院、鬱、家は猫のマーキングで荒れ放題、ってまさしく無頼の日々を送っていた40代後半のECDが、24歳年下のカメラマン、植本一子と出会い、付き合うようになって、同棲、妊娠、結婚、出産といったイベントを迎え…

『資本主義の終焉と歴史の危機』/水野和夫

まず水野は、タイトルの通り、資本主義システムの行き詰まりはもう目前にまで迫ってきている、と述べる。その理由として上げられるのが、先進各国で続いている超低金利状態だ。たとえば日本では、2.0%以下の超低金利がもう20年近く続いているわけだけれど、…

『かもめ』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

ニーナとトレープレフの立場というのは、物語の開始時点ではほぼ同等のものだと言っていいだろう。彼らはふたりとも、何も持っておらず、ただ淡い希望だけを胸に、あいまいな夢を見ている若者にしか過ぎない。そんなところに、トレープレフにとっての乗り越…

『三人姉妹』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

『桜の園』で競売の場面が描かれないのと同様に、『三人姉妹』においても、ドラマを推進していく事件そのものが舞台上で描かれることはほとんどない。第三幕の火事や、第四幕のトゥーゼンバフの死は、あくまでも背景に位置するもので、人物たちはその状況に…

『桜の園』/アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ

本作でまずおもしろいのは、誰も本気で「桜の園」を守りたい、とはおもっていなさそうなところだ。いや、正確には、「桜の園」を守るための具体的な行動を誰ひとり取ろうとしない、というところだ。ラネーフスカヤも、その兄ガーエフも、娘のワーニカとアー…

『オネーギン』/アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン

本作の主人公、エヴゲーニイ・オネーギンは、19世紀ロシア文学によく登場する「余計者」の原型、と言われているけれど、その造形はいまでもじゅうぶんに興味深いものだ。知識だけはあるが、それを生かすための興味や活力、指針といったものを持っていないが…

『ひとさらい』/ジュール・シュペルヴィエル

シュペルヴィエルの長編。以前に読んだ『海に住む少女』が完璧に素晴らしい作品だったので、それと比べてしまうとやはりどうしても落ちる、という印象はあった。でも、これはこれでなかなかおもしろい小説だ。 物語の主人公は、ビグア大佐という男。父性溢れ…

『女のいない男たち』/村上春樹

村上春樹の2014年作。短編集としては、前作『東京奇譚集』から9年ぶりの新作ということで期待して読んだのだけれど、これは素晴らしかった。『1Q84』あたりから、村上の作品の雰囲気はそれまでよりぐっと静謐なものになっているように感じられていたのだけれ…

『知識人とは何か』/エドワード・W・サイード

サイードによる知識人論。BBC放送向けに行われた講演をまとめたもので、シンプルな主張がコンパクトにまとめられている。 サイード曰く、知識人とは、権力や伝統、宗教やマスメディアや大衆や世間に迎合せず、また、利害や党派性や原理主義や、専門家の狭量…

『写字室の旅』/ポール・オースター

オースターの2007年作。シンプルな四角い部屋のなかに、老人が一人。彼には何の記憶もない。部屋の天井には隠しカメラが設置されており、その姿を撮影し続けている。やがて、彼の元をさまざまな人物が訪ねてくるのだが…! 長編と呼ぶには分量少なめの本作は…

『天使の囀り』/貴志祐介

Kindleにて。手堅いサスペンス・ホラーものを得意とするエンタメ作家、貴志祐介だけれど、今作は怖いというよりも気持ち悪い、それも超絶気持ち悪い一作だと言っていいだろう。何が気持ち悪いのか、ってところは本作のサスペンス要素に大きく絡んでくるので…

「クロイツェル・ソナタ」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)作者: トルストイ,望月哲男出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含むブログ (35件) を見る 嫉妬がもとで妻を刺し殺すに至った、ある…

「イワン・イリイチの死」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

舞台は19世紀ロシア。世俗的な成功を手にした中年裁判官、イワン・イリイチという男がふとしたきっかけで病に倒れ、数ヶ月の苦しい闘病の末に死んでいく…という一連の流れを描いた物語だ。 イワン・イリイチという男は、ごく平凡な性格と人生観とを持った主…

『ムーミンパパの思い出』/トーベ・ヤンソン

ムーミンパパの思い出 (ムーミン童話全集 3)作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,小野寺百合子出版社/メーカー: 講談社発売日: 1990/08/23メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 73回この商品を含むブログ (22件) を見る 「ムーミン童話全集」の三冊目。ムー…

『時は乱れて』/フィリップ・K・ディック

時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,山田和子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/01/10メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る ディックの1959年作。かなり初期の作品だけれど、なかなかおもしろく読め…

『とどめの一撃』/マルグリット・ユルスナール

とどめの一撃 (岩波文庫)作者: ユルスナール,Marguerite Yourcenar,岩崎力出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1995/08/18メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見る 物語の舞台は第一次大戦の終盤、ロシア革命期のバルト海沿岸。反ボル…

『赤と黒』/スタンダール(その2)

赤と黒(下) (新潮文庫)作者: スタンダール,小林正出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1958/05/22メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 10回この商品を含むブログ (44件) を見る 前回のエントリでは、「ジュリヤンにとって、出世や恋の成就といったものはあくま…