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『ゴルフ場殺人事件』/アガサ・クリスティ

ポアロものの第2作目。南米の富豪ルノー氏から、命を狙われているので急ぎ来てほしいと依頼状を受け取ったポアロは、ヘイスティングズとともに、ルノー氏の滞在するフランスはカレー近くの小さな町へ。ルノーの屋敷にやって来たふたりだが、すでに時遅く、氏はすでに刺殺され、屋敷近くに建設中のゴルフ場に穴を掘られて埋められていた。事件を防げなかったポアロは真相解明に乗り出すのだったが、ルノー氏には怪しげな過去があり…!

複数人がそれぞれの思惑でいろいろな行動を取っているがゆえに、事件の全容が掴みにくくなっている、というところは前作とよく似ている。ふたつの事件が重なり合って発生しており、おまけに過去の事件も関係しているために、各手がかりが何を意味するのかが非常にわかりにくくなっているのだ。そんなややこしく絡まり合った状況をひとつひとつ丁寧に解きほぐしていくポアロの推理は明快で、なかなか納得感がある。もっとも、事態が複雑すぎるために、本当にちょっとずつ解説を進めていくような感じになっていることもあって、いわゆるミステリの解決編的な盛り上がりには欠ける、ということは言えそうだ。なんとなく全体的に地味な作品という印象があるのも、そのせいだろう。

ヘイスティングズの一人称の語りがキュートなところも前作同様だけれど、今作では、恋に盲目になった彼がさらにいろいろやらかしてくれている。女の子を現場に連れて行っては凶器のナイフを盗まれてしまったり、挙げ句にはポアロと敵対しようとしたり。そんなところもなんだか微笑ましくおもえてしまうのは、作品全体のどこか牧歌的な雰囲気によるところが大きいだろう。

「おやおや。なんというロマンティックな話だろう。その魅力的な若い女性の名前はなんというんだね」
わたしは名前を知らないことを白状した。
「いよいよもってロマンティックだ。最初の出会いはパリからの列車のなか。二度目はここ。たしかこんな格言があったと思う。"旅は恋人を得て終わる"」
「ふざけないでくれよ、ポアロ」
「昨日はマドモワゼル・ドーブルーユ、今日はマドモワゼル・シンデレラ!きみはトルコ人の情熱を持っている、ヘイスティングズ。そのうちにハレムができそうだね」(p.176-177)

また、本作では、ライバル探偵役としてフランスのパリ警視庁のジロー刑事も登場する。物的証拠を重視するジロー刑事とポアロとの対立、というところも、まあステレオタイプではあるけれどもなかなかたのしい。ジローはポアロを老いぼれ扱いし、ポアロはジローを猟犬呼ばわりして、互いにバカにし合っているのだ。