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『だいたいで、いいじゃない。』/吉本隆明、大塚英志

97年から2000年にかけて四回行われたふたりの対談をまとめたもの。扱われているのは、エヴァンゲリオン、宮崎勤、宮台真司、江藤淳、オウム真理教などなど、まさにあの頃を代表するようなトピックたちで、20年以上経ったいま読んでみると、なんだかずいぶん懐かしい感じがしたのだった。

対談ではあるけれど、だらだらとした語りが何度も繰り返されがちで、正直、読んでいて退屈してしまうところも多くあった。たとえば、大塚がエヴァンゲリオンと庵野秀明について延々と自説を開陳するのに対し、吉本は、「ああ、そうですか。いや、そうおっしゃられると、ほんとにそういう感じ。」とか、「いやあ、たいへん啓蒙されました。」などと一言だけで話があっさり終わってしまったり。会話の応酬によって場が盛り上がっていき、グルーヴしていくような雰囲気がぜんぜん感じられないのだ。

もっとも、大塚としてもそのあたりは重々承知の上、ということではあるらしく、あとがきでこんな風に書いていた。

実際の対談はぼくも吉本さんももっと同じことを繰り返していて、ただ、読み物としてのうっとうしさを顧みずに敢えてその繰り返しをある程度残してあるのは、繰り返す中で少しずつ吉本さんの語りの意味あいが変化していくことがぼくには興味深かったからだ。というよりはその繰り返しこそがぼくが感じていた自分たちのことばの隘路から抜け出す具体的な手続きのように思えたからである。繰り返すことで一つの論理やことばからこぼれ落ちるようなものをゆっくりと回収していく。それがぼくの目撃した吉本さんの新しいことばというか思考のあり方で、ぼくにはそれがどうにも魅力的でぼくもまた同じように同じ事を繰り返し語ってみた。(p.280-281)

また、本編で、吉本はこんな風に語っていた。

僕らは、文学研究は頭でやるが文学批評は手でやるって、よく言うんです。そういう場合の手というのは、外から見た手じゃなくて、手で考えているということです。それは歳をとった学者と話をするとよくわかる。そういう人は、誰の本を読んでも同じように見える。自分が考えてきた筋道が見えるだけで、あ、そうか、そうかと思うだけなんです。そうするともうそれ以上勉強する気が失せてしまう。だけど僕らは手でやっているから、手を動かさなければ何もはじまらない。だから歳をとってもいいんですよ(笑)。頭でやっていると、人の本を読んでも多少の違いはあれ、結局は同じようなことを言っているなと思ってしまう。だけど僕らは、同じ事を言うためにだって違う表現は無限にあるんだと思っているわけです。だから僕らのほうがもつんです。(p.268)

繰り返し語るなかで徐々に変化していく意味合いだとか、手を動かすことではじめて得られるような違いだとか、そういったものに意識的でいなければ、頭が凝り固まってしまい、「あ、そうか、そうかと思うだけ」、「結局は同じようなことを言っているなと思ってしまう」…というのは、俺にもなんだかわかるような気がした。そして、自分がここ最近感じることが多い、虚無感というか、あれもこれも無意味に感じてしまう感じ、に抗するための処方箋として、「手を動かさなければ何もはじまらない」とかんがえるということは、理にかなっているようにもおもえたのだった。