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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『ひとさらい』/ジュール・シュペルヴィエル

シュペルヴィエルの長編。以前に読んだ『海に住む少女』が完璧に素晴らしい作品だったので、それと比べてしまうとやはりどうしても落ちる、という印象はあった。でも、これはこれでなかなかおもしろい小説だ。 物語の主人公は、ビグア大佐という男。父性溢れ…

『女のいない男たち』/村上春樹

村上春樹の2014年作。短編集としては、前作『東京奇譚集』から9年ぶりの新作ということで期待して読んだのだけれど、これは素晴らしかった。『1Q84』あたりから、村上の作品の雰囲気はそれまでよりぐっと静謐なものになっているように感じられていたのだけれ…

『知識人とは何か』/エドワード・W・サイード

サイードによる知識人論。BBC放送向けに行われた講演をまとめたもので、シンプルな主張がコンパクトにまとめられている。 サイード曰く、知識人とは、権力や伝統、宗教やマスメディアや大衆や世間に迎合せず、また、利害や党派性や原理主義や、専門家の狭量…

『写字室の旅』/ポール・オースター

オースターの2007年作。シンプルな四角い部屋のなかに、老人が一人。彼には何の記憶もない。部屋の天井には隠しカメラが設置されており、その姿を撮影し続けている。やがて、彼の元をさまざまな人物が訪ねてくるのだが…! 長編と呼ぶには分量少なめの本作は…

『天使の囀り』/貴志祐介

Kindleにて。手堅いサスペンス・ホラーものを得意とするエンタメ作家、貴志祐介だけれど、今作は怖いというよりも気持ち悪い、それも超絶気持ち悪い一作だと言っていいだろう。何が気持ち悪いのか、ってところは本作のサスペンス要素に大きく絡んでくるので…

「クロイツェル・ソナタ」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)作者: トルストイ,望月哲男出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含むブログ (35件) を見る 嫉妬がもとで妻を刺し殺すに至った、ある…

「イワン・イリイチの死」/レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ

舞台は19世紀ロシア。世俗的な成功を手にした中年裁判官、イワン・イリイチという男がふとしたきっかけで病に倒れ、数ヶ月の苦しい闘病の末に死んでいく…という一連の流れを描いた物語だ。 イワン・イリイチという男は、ごく平凡な性格と人生観とを持った主…

『ムーミンパパの思い出』/トーベ・ヤンソン

ムーミンパパの思い出 (ムーミン童話全集 3)作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,小野寺百合子出版社/メーカー: 講談社発売日: 1990/08/23メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 73回この商品を含むブログ (22件) を見る 「ムーミン童話全集」の三冊目。ムー…

『時は乱れて』/フィリップ・K・ディック

時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,山田和子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/01/10メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る ディックの1959年作。かなり初期の作品だけれど、なかなかおもしろく読め…

『とどめの一撃』/マルグリット・ユルスナール

とどめの一撃 (岩波文庫)作者: ユルスナール,Marguerite Yourcenar,岩崎力出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1995/08/18メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見る 物語の舞台は第一次大戦の終盤、ロシア革命期のバルト海沿岸。反ボル…

『赤と黒』/スタンダール(その2)

赤と黒(下) (新潮文庫)作者: スタンダール,小林正出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1958/05/22メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 10回この商品を含むブログ (44件) を見る 前回のエントリでは、「ジュリヤンにとって、出世や恋の成就といったものはあくま…

『赤と黒』/スタンダール

赤と黒(上) (新潮文庫)作者: スタンダール,小林正出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1957/02/27メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 31回この商品を含むブログ (56件) を見る 『赤と黒』で描かれているのは、極度に利己主義的でプライドが高く、と同時に、異様…

『贖罪』/イアン・マキューアン

贖罪作者: イアンマキューアン,Ian McEwan,小山太一出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/04メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 195回この商品を含むブログ (36件) を見る クラシカルな文芸大作の体裁をとった、マキューアン流のラブストーリー。とはいっ…

『自発的隷従論』/エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ

「なぜ、多くの民衆は、人間の本性とも言える自由を放棄してまで、たったひとりの苛虐な圧政者のもとに隷従するのか?」という不可思議な事態の原因が考察されている一冊。考察といっても、何らかの客観的な指標に基いて論が展開されているわけではなく、古…

『読書について』/アルトゥール・ショーペンハウアー

読書について (光文社古典新訳文庫)作者: アルトゥールショーペンハウアー,Arthur Schopenhauer,鈴木芳子出版社/メーカー: 光文社発売日: 2013/05/14メディア: 文庫この商品を含むブログ (15件) を見る ここ数か月というもの、本読みをすっかりさぼってしま…

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』/戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎(その2)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)作者:良一, 戸部,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎中央公論新社Amazon …前回のエントリでは、日本軍の失敗の要因というやつをノートにまとめてみた。ただ、各要因は相互に連関し合…

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』/戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎(その1)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)作者:良一, 戸部,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎中央公論新社Amazon 大東亜戦争における諸作戦――ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ…

「ヘーゲル法哲学批判序説」/カール・マルクス

ユダヤ人問題によせて ヘーゲル法哲学批判序説 (岩波文庫 白 124-1)作者:カール・マルクス岩波書店Amazon マルクスがヘーゲルの法哲学を批判しようとする動機と論拠とはいかなるものであるのか、が簡潔に記された文書。このなかで、プロレタリアートとはいっ…

「ユダヤ人問題によせて」/カール・マルクス

ユダヤ人問題によせて ヘーゲル法哲学批判序説 (岩波文庫 白 124-1)作者:カール・マルクス岩波書店Amazon ブルーノ・バウアーの2つの論文に関する書評。ごく短い論考ではあるのだけれど、マルクスは、バウアーの意見を叩き台としつつも、その限界点を指摘す…

『生きがいについて』/神谷美恵子

「生きがい」とは何なのか、それは人の生にとってどのような意味を持っているものなのか、どのように人は「生きがい」を得るに至るのか、などといったことについて扱われた一冊。もちろんこれは「生きがい」を手に入れるためのハウツー本ではないわけで、そ…

『共産党宣言』/カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)作者:マルクス,エンゲルス岩波書店Amazon 1848年に公刊された、「共産主義者同盟」の綱領を示した文書。近代ブルジョア社会の構造と発展についての理論的な説明と、プロレタリア革命の必然性、また、当時の各国に…

『番茶菓子』/幸田文

幸田文のエッセイ集。3,4ページの掌編が集められたもので、ちびちび読んでいくのがたのしい一冊だ。内容的には、日常雑記的なものや思い出語りが大半で、どれもごく淡々としているのだけれど、その淡々とした感じ、その時々の気分や想いというのをきちんと言…

『アラン・ケイ』/アラン・カーティス・ケイ

アラン・ケイ (Ascii books)作者: アラン・C.ケイ,Alan Curtis Kay,鶴岡雄二出版社/メーカー: アスキー発売日: 1992/04メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 69回この商品を含むブログ (48件) を見る アラン・ケイは、メインフレーム主流の時代に、個人で使…

『ふしぎなキリスト教』/橋爪大三郎、大澤真幸(その3)

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)作者: 橋爪大三郎,大澤真幸出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/05/18メディア: 新書購入: 11人 クリック: 184回この商品を含むブログ (137件) を見る 第3部 いかに「西洋」をつくったか 第3部で扱われるのは、キリスト…

『ふしぎなキリスト教』/橋爪大三郎、大澤真幸(その2)

第2部で取り上げられるのは、イエス・キリストにまつわるさまざまな疑問だ。イエス・キリストとはいったい何か?どのようにかんがえられ、どのように扱われてきたのか?預言者ではない、とされているが、じゃあいったい何者なのか?人間なのか神なのか?…と…

『ふしぎなキリスト教』/橋爪大三郎、大澤真幸(その1)

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)作者: 橋爪大三郎,大澤真幸出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/05/18メディア: 新書購入: 11人 クリック: 184回この商品を含むブログ (137件) を見る 非常にわかりやすくまとめられた一冊。大澤が「誰もがいちどは抱く…

『絵のない絵本』/ハンス・クリスチャン・アンデルセン

貧しい絵描きの若者を慰めるため、月は夜ごとにやって来ては、一晩に一話ずつ、これまでに見てきたさまざまなできごとを語って聞かせてくれました…という形式で書かれた、連作の短編集。一編あたり4,5ページくらいの長さのものがほとんどなので、短編という…

『悲しき熱帯』/クロード・レヴィ=ストロース(その2)

前回のエントリには、読みづらさのことばかり書いてしまったけれど、1巻の終盤以降からは、フィールドワークの話が主軸になっていく(そこから、横道に逸れるような形で省察が展開される)ので、だいぶ読みやすくなってくる。レヴィ=ストロースは、南米の「…

『悲しき熱帯』/クロード・レヴィ=ストロース(その1)

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)作者:レヴィ=ストロース中央公論新社Amazon レヴィ=ストロースの思想と方法論とが収められた一冊。1935年から1939年まで、ブラジル奥地のインディオのもとに赴いて行ったフィールドワークの記録と合わせて、彼が「いかに…

『『嵐が丘』を読む ポストコロニアル批評から「鬼丸物語」まで』/川口喬一

『嵐が丘』を読む作者:川口 喬一みすず書房Amazon 『嵐が丘』に関するさまざまな文学批評、読みの方法が取り上げられた一冊。さすが古典と言うべきか、ロマン主義の表現主義的批評から始まって、リアリズム批評やマルクス主義批評、ニュー・クリティシズムや…