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『共産党宣言』/カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス

1848年に公刊された、「共産主義者同盟」の綱領を示した文書。近代ブルジョア社会の構造と発展についての理論的な説明と、プロレタリア革命の必然性、また、当時の各国におけるプロレタリア一般に対し、共産主義者はどのように働きかけていくべきか、といった内容が記されている。

エンゲルスは、本書に収められた「一八八三年ドイツ語版への序言」で、『共産党宣言』のベースとなるかんがえ方について、簡潔にまとめてくれている。

『宣言』をつらぬいている根本思想は次のことである。おのおのの歴史的時期の経済的生産およびそれから必然的に生れる社会的組織は、その時期の政治的ならびに知的歴史にとって基礎をなす。したがって(太古の土地共有が解消して以来)全歴史は階級闘争の歴史、すなわち、社会的発展のさまざまの段階における搾取される階級と搾取する階級、支配される階級と支配する階級のあいだの闘争の歴史であった。しかしいまやこの闘争は、搾取され圧迫される階級(プロレタリア階級)が、かれらを搾取し圧迫する階級(ブルジョア階級)から自分を解放しうるためには、同時に全社会を永久に搾取、圧迫、および階級闘争から解放しなければならないという段階にまで達した。(p.10)

そんな「全社会を永久に搾取、圧迫、および階級闘争から解放」するための共産主義革命だけれど、本書では、その道筋がいったいどのようなものであるかが素描されている。以下、簡単に流れを追ってみようとおもう。

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  1. まず第一に、プロレタリアを階級として形成、発展させ、それによってブルジョア階級の支配を強力的に転覆、政治権力を獲得する。
  2. (プロレタリア階級は、資本の拡大に伴って発展していく。資本の求める労働の量が増加し、プロレタリア内部での競争が激化していくにつれ、プロレタリアは全体としてその能力を発達させ、団結のための力を増していくことになるからだ。そういう意味で、プロレタリアというのは、ブルジョアにとって必要不可欠でありながらも、その社会構造を内部から切り崩していく危険を秘めた存在でもある、ということになる。)

    大工業の発展とともに、ブルジョア階級の足もとから、かれらに生産させ、また生産物を取得させていた土台そのものが取り去られる。かれらは何よりも、かれら自身の墓掘人を生産する。かれらの没落とプロレタリア階級の勝利は、ともに不可避である。(p.60,61)

  3. そして、その上で「ブルジョア的私的財産」を廃止し、その生産用具をプロレタリアのもとに移行することで、「伝統的所有諸関係とのもっとも根本的な決裂」を実現する。
  4. (ここで言う「ブルジョア的私有財産」というのは、階級対立に基づいた、つまり搾取に基づいた財産のことであり、また、プロレタリアによる賃金労働というのは、「資本という財産を作り出」し、「あたらしい賃金労働を生産してそれをふたたび搾取するという条件がなくては、みずからふえることのない財産」である、とマルクス/エンゲルスは述べている。「解放」のためには、そういった財産、資本というものが持つ社会的な意味合いから階級的な性質を剥ぎ取ってしまう必要がある、ということだ。 だからこれは、プロレタリアはブルジョアから利潤を奪い返し、豊かな生活を送ろう、というような話ではない。そうではなくて、財産、富を得るという発想そのものを廃棄してしまおう、ということなのだ。)

    共産主義はだれからも、社会的生産物を取得する権力を奪わない。ただ、この取得によって他人の労働を自分に隷属させる権力を奪うだけである。(p.67)

  5. このようにして現実化した共産主義社会においては、階級間の差異とそれによる対立、すなわち社会の一部分による他の部分の搾取というものがなくなり、他の階級を抑圧するための政治権力というものがなくなっていくことになる。 (政治権力がなくなっていくということは、いまあるような形の「国家」というものが解体され、存在しなくなっていく、ということでもある。)

共産主義者に対して、祖国を、国民性を廃棄しようとする、という非難が加えられている。 労働者は祖国をもたない。かれらのもっていないものを、かれらから奪うことはできない。プロレタリア階級は、まずはじめに政治的支配を獲得し、国民的階級にまでのぼり、みずから国民とならねばならないのであるから、決してブルジョア階級の意味においてではないが、かれら自身なお国民的である。(p.71,72)

…まあ、おおよそこのような感じだろうか。他に重要な点としては、共産主義は単なるおもいつきのユートピアではなく、ブルジョア社会に内在する問題を解決してくことで導かれる必然的な到達点である、ということ、そして、その際には、政治的運動と経済的運動とが統一的になされる必要がある、ということなどを挙げることもできるだろう。

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まあやっぱり、革命に向けての文書というわけで、全体的に筆致が熱くて扇動的ではあるのだけれど、それ以上に、何とも射程の長い、スケールの大きな話をしている、という感じがぐっときた。何しろ、全世界的な階級闘争の歴史、富・経済的価値への欲求と搾取の歴史を塗り替えてやろうぜ、って話なのだ。単純に、読みものとしておもしろい一冊だった。

共産主義者は、自分の見解や意図を秘密にすることを軽べつする。共産主義者は、これまでいっさいの社会秩序を強力的に転覆することによってのみ自己の目的が達成されることを公然と宣言する。支配階級よ、共産主義革命のまえにおののくがいい。プロレタリアは、革命においてくさりのほか失うべきものをもたない。かれらが獲得するものは世界である。 万国のプロレタリア団結せよ!(p.97,98)