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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学

『アリーテ姫の冒険』/ダイアナ・コールス

「かしこい」お姫様、アリーテ姫が、男たちの悪巧みをひらりひらりとくぐり抜け、強く、どこまでも自然体のままで生きていく…という童話。古色蒼然とした「お姫様」像を塗り替える、頭脳派で行動派、プラス思考なヒロインが魅力的な物語だ。 「姫、おまえが…

『たのしいムーミン一家』/トーベ・ヤンソン

たのしいムーミン一家 (ムーミン童話全集 2)作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,山室静出版社/メーカー: 講談社発売日: 1990/06/22メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 16回この商品を含むブログ (16件) を見る 「ムーミン童話全集」の二冊目。ある春の日…

『チャイルド・オブ・ゴッド』/コーマック・マッカーシー

チャイルド・オブ・ゴッド作者: コーマック・マッカーシー,Cormac McCarthy,黒原敏行出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2013/07/10メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (22件) を見る マッカーシーの1973年作。長編としては3作目、『すべての美しい…

『オズワルド叔父さん』/ロアルド・ダール

ダールの長編。オズワルド叔父さんなる男――「鑑定家、陽気なお人好し、蜘蛛と蠍とステッキの蒐集家、オペラ愛好家、中国磁器の権威、女たらし、それにたえて偉大なる姦夫でなかったためしはない」男――がいかにして巨万の富を築くに至ったか、についての物語…

『ソーラー』/イアン・マキューアン

ソーラー (新潮クレスト・ブックス)作者: イアンマキューアン,Ian McEwan,村松潔出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/08メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る ちび、でぶ、はげでジャンクフードと女が大好き、ノーベル賞を受…

『ムーミン谷の彗星』/トーベ・ヤンソン

ムーミン谷の彗星 (ムーミン童話全集 1)作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,下村隆一出版社/メーカー: 講談社発売日: 1990/06/22メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 42回この商品を含むブログ (28件) を見る 以前、堀江敏幸『回送電車』で、「ヤンソンの…

『バーデンハイム1939』/アハロン・アッペルフェルド

本作には、いわゆるホロコーストものによくある、強制収容所での生活やガス室送りの恐怖などに関する描写は一行も含まれていない。わかりやすく感傷的なエピソードはほとんど発生せず、ひたすら淡々とした叙述が続いていくために、いくら読み進めていっても…

『丕緒の鳥 十二国記』/小野不由美

なんと12年ぶりのシリーズ新刊。 本作は短編集で、「丕緒の鳥」,「落照の獄」,「青条の蘭」,「風信」の4編が収められている。各編に共通しているのは、荒廃した国における民の生活や小役人の苦悩みたいなものを切り取ったスケッチ的な内容で、王や麒麟など、…

『ハムレット』/ウィリアム・シェイクスピア

本作の何よりの魅力は、やはりハムレットというキャラクターの「底の知れなさ」にあるだろう。テキストからは、ハムレットの心情の奥底の部分、ハムレットを突き動かす本当の動機、ハムレットに取り憑いた狂気の真正さ、などといったものを明確に推し量るこ…

『サマータイム』/佐藤多佳子

サマータイム (新潮文庫)作者: 佐藤多佳子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/08/28メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 35回この商品を含むブログ (99件) を見る いつもよりちょっと早起きした休みの日、薄曇りの空から落ちてくる太陽の光はやわらかく、風…

『考える練習』/保坂和志

保坂和志のインタビュー集。編集者との対談形式になってはいるものの、ほとんど保坂がひとりでしゃべり続けているので、まあインタビュー集という言い方で間違いはないんじゃないかとおもう。保坂の近頃の小説以外の作品はだいたいどれも同じような内容なの…

『モモ』/ミヒャエル・エンデ

モモ (岩波少年文庫(127))作者: ミヒャエル・エンデ,大島かおり出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2005/06/16メディア: 新書購入: 41人 クリック: 434回この商品を含むブログ (299件) を見る 十数年ぶりに再読。全体的にバランスの取れた、かなりクオリティ…

『日はまた昇る』/アーネスト・ヘミングウェイ

ヘミングウェイの最初の長編。短いセンテンスを連ねた簡潔でリズミカルな文体、ぶっきらぼうな会話文、主人公の心情をあからさまにしないハードボイルドな態度、などといった彼の語りのスタイルは、今作の時点ですでに確立されていると言っていいだろう。 物…

『ヴェニスの商人』/ウィリアム・シェイクスピア

どうも最近だと、「シャイロックという人物の深みが…」とか、「シャイロックという人物の悲劇性が…」とか、「シャイロックという人物はユダヤ人のステレオタイプなどといったものではなく…」といったような、シャイロックの被抑圧っぷりに注目したシリアスめ…

『ジェイン・エア』/シャーロット・ブロンテ

主人公、ジェインの魅力は、何といってもその意志力の強さだろう。文字通り自分の意志の力ひとつで人生と格闘し、運命を切り開いていくその姿は、とにかくかっこいいとしか言いようがない。ジェインの意志力は、物語冒頭では不幸な生い立ちからの脱却への志…

『ダブル/ダブル』/マイケル・リチャードソン編

決して明かされてはならない秘密である「分身」。その存在が明らかにされると消滅してしまうか、むしろ本体の方を抹殺してしまう「分身」。本体からの独立や分離を、あるいは入れ替わりを望む「分身」。本体の陽性/陰性のみを抽出したかのような「分身」。そ…

『海に住む少女』/ジュール・シュペルヴィエル

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)作者: シュペルヴィエル,永田千奈出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (82件) を見る これはひさびさの大当たりだった!シュペルヴィエル、こんなにも…

『回送電車』/堀江敏幸

回送電車作者:堀江 敏幸中央公論新社Amazon 「書店では置き場のない中途半端な内容で、海外文学評論の棚にあるかと思えば紀行文の棚に投げ入れられていたり、エッセイや詩集の棚の隅でに寄せられているかと思えば都市計画の棚に隠されていることもあるといっ…

『星の王子さま』/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(その2)

「王子さま」と「僕」との対話は、ほとんどが一方的な「王子さま」の独白のようでもあるけれど、たぶんそうではない。「王子さま」は、やはり、彼の話をきちんと聞いて、受け止めてくれる「大人」というものを必要としていたのではないか。自分の心の内をさ…

『「星の王子さま」物語』/稲垣直樹

「星の王子さま」物語 (平凡社新書)作者:稲垣直樹平凡社Amazon 前回と前々回のエントリで取り上げた『星の王子さま』解説本はどちらも物足りなかったので、図書館からさらに5,6冊、同系統の本を借りて来て、ひと通り読んでみた(今年のGWは、ほとんどこれで…

『星の王子さまとサン=テグジュペリ 空と人を愛した作家のすべて』

星の王子さまとサン=テグジュペリ ---空と人を愛した作家のすべて河出書房新社Amazon ムックというか、編集本というか、まあそういった感じの一冊。「『星の王子さま』をめぐって」、「サン=テグジュペリ、その人となり」、「サン=テグジュペリの仕事」、…

『星の王子さまの世界 読み方くらべへの招待』/塚崎幹夫

なにしろ、『星の王子さま』という作品が感動的なのは、「王子さま」の最後の決断が、まさにこれしかない、と感じさせるような決断であるからなのだ。塚崎の意見からすれば、『星の王子さま』に書かれているのは、逃避や免罪符やノスタルジアの生暖かい感覚…

『星の王子さま』/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(その1)

星の王子さま (新潮文庫)作者: サン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,河野万里子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/03/28メディア: 文庫購入: 24人 クリック: 119回この商品を含むブログ (184件) を見る およそ10年ぶりに再読。世界的大ベストセ…

『蜘蛛女のキス』/マヌエル・プイグ

蜘蛛女のキス (集英社文庫)作者:マヌエル・プイグ集英社Amazon アルゼンチンの作家、マヌエル・プイグの有名作。ふたりの囚人がひとつ牢のなかに入れられている。ひとりは革命思想を抱いた政治犯の若者バレンティン、もうひとりは同性愛者の中年男、モリーナ…

「ネフスキイ大通り」/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

狂人日記 他二篇 (岩波文庫 赤 605-1)作者: N.ゴーゴリ,横田瑞穂出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1983/01/17メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 22回この商品を含むブログ (35件) を見る 画家のピスカリョーフと中尉のピロゴーフが連れ立ってネフスキイ大…

『いちばんここに似合う人』/ミランダ・ジュライ

映画監督としても有名な、ミランダ・ジュライのデビュー作。16の短編が収められているが、どれをとってもアイデアはキュートで文体はポップ、しかしそこで描かれる心情というのはひりひりとするような痛みや孤独にまつわる切実な感情である、というところで…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』/村上春樹

今作の基本的なトーンというのは、いままでの村上の小説を読んできた読者にとってはおなじみのものだ。主人公の多崎つくるは、(例によって)内向的で自己完結的、他者と深く関わることのない生活を送っており、生きることに対して積極的な関心を持っていな…

『ラテンアメリカ十大小説』/木村榮一

スペイン語圏文学の翻訳と言えばまずこの人の名前がおもい浮かぶ、木村榮一によるラテンアメリカ文学の入門書。いわゆる「ラテンアメリカ文学ブーム」前後の作家たち10人とその代表作とを取り上げながら、各作品の内容からラテンアメリカ文学全体の傾向/特徴…

『ノアの羅針盤』/アン・タイラー

アン・タイラーの作品で描かれるのは、ごく平凡でまじめで、ちょっぴり野暮ったくて、家族との関係において何らかのトラブルやフラストレーションを溜め込んでいる、そんな登場人物たちの人生の一シーンである。プロットには概して大きな起伏はなく、いわゆ…

「九通の手紙からなる小説」/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

ドストエフスキー全集〈第1巻〉 (1963年)作者: 小沼文彦出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1963メディア: ?この商品を含むブログを見る ピョートル・イワーヌイッチとイワン・ペトローヴィッチなるふたりの男による、計9通の往復書簡からなる短編。ピョート…