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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

本-文学

『ワールズ・エンド(世界の果て)』/ポール・セロー

米作家、ポール・セローの短編集。各短編はロンドン、コルシカ島、アフリカ、パリ、プエルト・リコなど、いずれもアメリカ人の主人公たちにとっての"異国"を舞台としている。"異国"のルールを理解/把握することのできない彼らは、漠然とした不安や寄る辺のな…

『査察官』/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

『査察官』はゴーゴリの戯曲だ。今作も、この本に納められている他の2編と同様、落語調で訳されている。 舞台はロシアのとある田舎町。市長をはじめとする町の有力者たちは、ペテルブルクから査察官がお忍びでやって来るらしいとの情報を得て、ぴりぴりと過…

「鼻」/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)作者: ゴーゴリ,浦雅春出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/11/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含むブログ (59件) を見る ある朝、床屋のイワン・ヤーコヴレヴィチがパンをナイフで切り分けていた…

「プロハルチン氏」/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

ドストエフスキー全集〈第1巻〉 (1963年)作者: 小沼文彦出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1963メディア: ?この商品を含むブログを見る プロハルチン氏は、家族もいなければ友達もいない、貧しい下級官吏の老人である。貧しいといっても、役所勤めもそれなり…

『二重人格』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

ちょっぴりマイナーな、ドストエフスキーの第2作目。その名の通り、いわゆる「分身小説」だ(俺が読んだのは岩波文庫の小沼文彦訳『二重人格』だけれど、訳によっては、タイトルを『分身』としているものも多い)。主人公のゴリャートキン氏は九等官の役人。…

『ブルックリン・フォリーズ』/ポール・オースター

オースターの小説の主人公は、作者の年齢とともに少しずつ年寄りになってきているけれど、本作の語り手はもうすぐ60歳、壮年期も終わりに差し掛かり、すでに仕事をリタイヤしたおっさんである。そんなおっさんが、オースターの小説の主人公らしく、延々と内…

『わがタイプライターの物語』/ポール・オースター

オースターは、ごく若い頃に友人から安く手に入れたタイプライターをいまだに使い続けている。聞く限りでは、コンピュータというやつはどうも信用ならないもののようだし(間違ったキーを押すと、原稿がいきなり消えてしまったりするっていうじゃないか!)…

『トムは真夜中の庭で』/アン・フィリッパ・ピアス

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))作者: フィリパ・ピアス,スーザン・アインツィヒ,Philippa Pearce,高杉一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/06/16メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 54回この商品を含むブログ (100件) を見る これは素晴…

「駅長ファルメライアー」 /ヨーゼフ・ロート

「おそらく、ファルメライアーは帰還したヴァレフスカ伯爵をひと目見るや、己の敗北を決定的に悟ってしまったのだろう…」だとか、「ファルメライアーの諦めは、自分は戦争という特殊な状況下だったからこそ、伯爵夫人と結ばれることができたのだと強く自覚し…

『純愛(ウジェニー・グランデ)』/オノレ・ド・バルザック

これもドストエフスキー関連で読んだ一冊。1844年、作家としてデビューする前のドストエフスキーが翻訳した、バルザックの有名作だ。もともとのタイトルは、"Eugénie Grandet"。「人間喜劇」的には、「地方生活情景」に属する作品だ。 フランスの田舎はソー…

「駅長」/アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン

(037)駅 (百年文庫)作者: ヨーゼフ・ロート,戸板康二,プーシキン出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2010/10/12メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログを見る またまた『貧しき人びと』関連のエントリになるけど、こちらは、「外套」とは違って、…

「外套」/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)作者: ゴーゴリ,浦雅春出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/11/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含むブログ (59件) を見る 先日エントリを書いた『貧しき人びと』のパロディ元である、ゴーゴリの「…

『貧しき人びと』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(その2)

マカールの発話のスタイル――他者の視線を内面化し、先取りした他者の言葉に絶えず反発しながら自分語りをする――や、その病的なまでの熱烈さというやつは、まさしくドストエフスキー独特のものだけれど、マカールというキャラクターの設定自体は、ゴーゴリ「…

『貧しき人びと』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(その1)

貧しき人びと (新潮文庫)作者: ドストエフスキー,木村浩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1969/06/24メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (34件) を見る ドストエフスキー、24歳のときのデビュー作。作品のボリューム的には、まあ中編といった…

『愛その他の悪霊について』/ガブリエル・ガルシア=マルケス

愛その他の悪霊について作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,旦敬介出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/08/01メディア: 単行本 クリック: 11回この商品を含むブログ (24件) を見る 混み入って重層的な物語構造が用いられることの…

『とるにたらないものもの』/江國香織

江國香織のエッセイ集。タイトル通り、身のまわりの「とるにたらないものもの」――ふつうに存在しているもの、無駄なもの、べつに気にしなくても何の支障もないもの――に宿る詩情への偏愛が語られている。どれも2,3ページ程度の短い文章だけれど、彼女独特の視…

『黄色い雨』/フリオ・リャマサーレス

黄色い雨作者: フリオリャマサーレス,Julio Llamazares,木村榮一出版社/メーカー: ソニーマガジンズ発売日: 2005/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ (38件) を見る まったくもう、これも素晴らしかった!泣きたくなる…という…

『狼たちの月』/フリオ・リャマサーレス

スペインの作家/詩人、フリオ・リャマサーレスの初の長編小説。いやー、これはもう、びっくりするほど素晴らしかった!物語の語り手はスペイン内戦の敗残兵(故郷の山奥に逃げ込んでいるが、フランコ派の軍隊の監視があるために、何年経ってもそこから下りて…

『うたかたの日々』/ボリス・ヴィアン

ヴィアンの何よりの魅力は、シャンパンの泡のように軽やかでさわやか、きらきらと透明に輝くその文体だろう。重さや寓意性などといったまどろっこしいものはことごとく退けられ、ひたすらエレガントであること、ナンセンスであることだけに意識が向けられて…

『なつのひかり』/江國香織

江國香織の95年作。タイトル通り、白っぽい日差しや湿った匂い、けだるさ、客のこない小さな商店、田園、砂浜などといった、夏のイメージが全編からただよってくる、ちょっとシュルレアリスティックな匂いのするのファンタジーだ。江國作品らしく、登場人物…

『通話』/ロベルト・ボラーニョ

チリはサンティアゴ出身の作家/詩人であるロベルト・ボラーニョの短編集。ボラーニョの作品ははじめて読んだのだけど、描写らしい描写というのがほとんどなく、物語性もかなり希薄。背景もストーリーも輪郭がはっきりしていないのだ。その代わり、文章自体は…

『タイガーズ・ワイフ』/テア・オブレヒト

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)作者: テアオブレヒト,T´ea Obreht,藤井光出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2012/08/01メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (17件) を見る 旧ユーゴスラヴィアはベオグラード出身、1985年生まれ…

『レ・コスミコミケ』/イタロ・カルヴィーノ

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)作者: イタロ・カルヴィーノ,米川良夫出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2004/07/22メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 47回この商品を含むブログ (97件) を見る 「わしは、あらゆる時間・空間を超えて偏在してきた」と主…

「マーリオと魔術師」/トーマス・マン

トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)作者: トーマス・マン,平野卿子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/01/06メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (8件) を見る 1920年代、ファシズムの支配下にあったイタリアを舞台とし…

「トーニオ・クレーガー」/トーマス・マン

トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)作者: トーマス・マン出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2016/07/29メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る トーマス・マンの小説って、いままでほとんどまともに読んだことがなかったのだけど、いやー、…

『スローターハウス5』/カート・ヴォネガット・ジュニア

ヴォネガットの長編第6作目。作中、過去の作品の主要なキャラクターたちがたびたび顔を出していることからも明らかであるように、いままでの集大成といった趣の作品である。取り扱われるモチーフは、ヴォネガット自身が体験したという、第2時大戦中のドレス…

『族長の秋』/ガブリエル・ガルシア=マルケス

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)作者: ガブリエルガルシア=マルケス,鼓直出版社/メーカー: 集英社発売日: 2011/04/20メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る マルケスの代表作といえば、やはりノーベル文学賞…

『供述によるとペレイラは……』/ アントニオ・タブッキ

しばらくまえに『インド夜想曲』を読んだときから、タブッキのふわふわと心地よい文体のことが気になっていて、『供述によるとペレイラは……』にも手を出してみた。本作におけるタブッキの文章は、ゆったりとして、装飾や比喩表現も控えめ、ほとんど簡素とも…

『百年の孤独』/ガブリエル・ガルシア=マルケス

『百年の孤独』におけるガルシア=マルケスは、ものすごい美文家というわけではないし、信じられないほどの構成力を持った作家というわけでもなければ、誰も扱ったことのなかった新しいスタイルの使い手というわけでもない。ストーリーテリングの手法なんかは…

「アウルクリーク橋の出来事」/アンブローズ・ビアス

米ジャーナリスト/作家だったビアスの、おそらくは唯一有名であるとおもわれる作品が、この短編、「アウルクリーク橋の出来事」だ。ある男が橋の上に立っている。周囲には銃を携えた兵隊が多くおり、男の首には縄がまかれている。どうやら彼はこれから絞首刑…