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『ラテンアメリカ十大小説』/木村榮一

スペイン語圏文学の翻訳と言えばまずこの人の名前がおもい浮かぶ、木村榮一によるラテンアメリカ文学の入門書。いわゆる「ラテンアメリカ文学ブーム」前後の作家たち10人とその代表作とを取り上げながら、各作品の内容からラテンアメリカ文学全体の傾向/特徴まで、わかりやすく解説してくれている。予備知識なしで読める一冊だけど、紹介自体はなかなかしっかりとしているので、「どういう作家で」「どういうタイプの作品なのか」って概要についてはそれなりに抑えることができるようになっている。

取り上げられている「十大小説」は以下の通り。

『エル・アレフ』/ホルヘ・ルイス・ボルヘス
『失われた足跡』/アレホ・カルペンティエル
『大統領閣下』/ミゲル・アンヘル・アストゥリアス
『石蹴り』/フリオ・コルタサル
『百年の孤独』/ガブリエル・ガルシア=マルケス
『我らが大地』/カルロス・フェンテス
『緑の家』/マリオ・バルガス=リョサ
『夜のみだらな鳥』/ホセ・ドノソ
『蜘蛛女のキス』/マヌエル・プイグ
『精霊たちの家』/イサベル・アジェンデ

さすがに「十大小説」と銘打っているだけあって、選ばれているのはどれも有名な作品ばかりだ。だから、既に読んだことのある作品もいくつかあったのだけれど、木村のツボを抑えた解説を読んでいると、どれも改めてちゃんと読み直したい!って気分にさせられてしまった。あと、この辺りの作品ってどれもヘヴィなものだかから、感想をまとめたり文章化したりするのが難しいのだけど、サボらないようにしなきゃ…ともおもった。

各作家/作品の解説の合間に、時折挟み込まれる木村自身のエッセイ的な軽い文章もおもしろい。たとえば、こんなところ。

時間に関しては、ユカタン半島にあるウシュマルの遺跡を訪れた時のことを忘れることができません。近くの町からハイヤーでマヤの遺跡に向かったのですが、車が猛スピードで走るので心配になってメーターをのぞいてみると、なんと時速一〇〇マイルで飛ばしていたのです。ようやく目的地に着いたので、ほっと胸をなでおろして降りる時にちらっとメーターに目をやると、車が停車しているにもかかわらず針は一〇〇マイルを指したままでした。思わず運転手の顔を見ると、にやっと笑いかけてきたのですが、その顔を見て、なるほど、メキシコではこういうことが珍しくないんだ、ぼくが訪れたのは時間も速度も計測不可能な世界なんだ、と改めて実感させられました。(p.41,42)

的確なエピソードと、的確な文章、という感じだ。