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『星の王子さまとサン=テグジュペリ 空と人を愛した作家のすべて』

ムックというか、編集本というか、まあそういった感じの一冊。「『星の王子さま』をめぐって」、「サン=テグジュペリ、その人となり」、「サン=テグジュペリの仕事」、の3章構成になっており、全部で18人の書き手の文章が収められている。情報量はそれなりに多いけれど、正直言って、全体的なテキストのレベルは微妙な感じだ(なぜこれを再録する?っていうようなクオリティの文章がちらほら含まれている)。『星の王子さま』のテキストを読んだ上での所感・感想、というようなタイプの文章は、冒頭に収められている小原信の「『星の王子さま』について」くらいだったので、それについて軽くメモを取っておく。

小原の主張も、大筋は『星の王子さまの世界 読み方くらべへの招待』の塚崎と同じようなものだと言っていいだろう。『星の王子さま』で扱われている問題は、既に過ぎ去った子供時代のものなどではない。『星の王子さま』を読むと、誰しもが子供時代へのノスタルジアを感じ取り、ああ、あのころはピュアだったよね…純粋だったあの頃をおもい出させてくれてありがとう、なんて言って本を閉じてしまうわけだけれど、そんな読み方はぜんぜん「大人」ではない。ノスタルジアを嗅ぎとって、よかった、いい本だった、といって終わらせてしまうのではなく、「王子さま」の問題意識をアクチュアルなものとして、いままさに自分がその渦中にいる問題として、かんがえ続けていく必用があるはずだ…というようなことである。

まあそれはわかる。それはわかるのだが、じゃあ「大人」ならば、どうかんがえていけばいいのか?まず、あなたはどうかんがえているのか?ということになると、小原の結論はずいぶんあやふやものになってしまう。

じぶんはかつて子どもだったが、いまはもう子どもではない。そうおもうだけで、じつはまだ大人になっていないということがわかっていないひとが多すぎるのだ。
そういうひとは、ここで、いのちあるものの持つ、弱さ、不安、よるべなさを認めて、あえてそこに、踏みとどまる必要がある。 大人にはそれらをもうすぎた過去のこととして、おさらば、できているわけではないのだ。
きょうもまた、新しい問題を前にしてとまどい、ほほえむのだが、そこにひとを惹きつけるあどけなさやひかりがみつかれば、それでいいということなのだ。
少なくとも、重荷はすべて取り払われてしまったわけではない。(p.13)

大人というのは、きょう何とか凌げたとしても、その問いがまだ終わらない時間を生きていくひとである。
それらのことが、もはや過去のこと、もう済んだこととして済ませてしまえるのではなく、まだ進行中の問題として、渦中のなかに依然として身をおく覚悟をとりつづけながら生きるひとである。
そうして、あすまた、次の新しい問題に対決しなければならないのである。
それゆえ、いまかかえている問いから目をそむけず、踏みとどまること、耐え凌いでいく力をもつことが肝要なのである。そこに問題が潜んでいることを知りながら、大人として、そこから目を背けることなく、見据えながらも、いままた新たに生きていこうとする。(p.13)

こういう言い方は、それなりに「文学的」なのかもしれないけれど、内容と言えるものがほとんどない。『星の王子さま』で扱われているテーマはあなたの問題でもある、決してあの本は過去を懐かしむだけのキュートな一冊ではないんですよ、しっかりと向き合いなさい、と言っているだけだ。でも、そんなのは本を読めば明らかなことだ。聞きたいのは、そのもう一歩先の話だよ!とおもってしまった。