これはすばらしい小説だった!!物語はかなりスラップスティックな感じで、むちゃくちゃな状況にひたすら翻弄されつづける人間の姿が皮肉っぽく描かれている。ただ、ヴォネガットはそれをくだらない、って言うんじゃなく、愛情を込めた視線で見つめているから、シニカルさと表裏一体になったウェットな部分、感傷的なところがこころに響く。
ストーリーはちょっと簡単には書きづらい。時間等曲率漏斗なるものに飛び込んだことで、あらゆる時空間に存在する、神のような存在となった男と、彼に操られるようにして火星、水星、タイタンへと放浪することになる男とを中心にして物語は展開していくのだけど、なにしろそのスケールは宇宙規模だし、全人類を巻き込む宗教の話でもあれば、人間というものの存在意義(のなさ)についての話でもある。
なにか運命のような大きなちからに動かされること、システムのなかに組み込まれること。個人の自由を根源的なものとしてかんがえようとしたとき、それらは憎むべきもののようにおもえることもある。ただ、人はどうしたって利用され、操られ、たくさんの制限を受けながら生きていくしかない。さまざまな枷をはめられたうえで、それでもそのなかで生き、幸福を求めること。それはひたすらに理不尽で、おまけに無価値なことなのかもしれないけれど、ヴォネガットはそんな人の姿をやさしく、うつくしく描き出す。
「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」と彼女はいった。「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」(p.330)
「おれたちはそれだけ長いあいだかかってやっと気づいたんだよ。人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ、と」(p.333)
この小説の底のところには、人間に対する諦観がある。でも同時に、それでもどうにかやっていかなきゃならないし、人間の存在意義のようなものがもしあるとするならば、その無意味さや滑稽さのなかにしかありえないだろう、っていうような態度もあって、そこがなによりすばらしいとおもった。あと、こういうスケールの大きい物語を読むと、自分の悩みとかちっちゃいよなー、とかおもえたりして、そんな感じもよかった。
ヴォネガットの小説はいままで数冊しか読んだことがなかったので、これからちょっと集中して読んでいってみたい。