Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想/レビューなど。

2013-01-01から1年間の記事一覧

『ザ・マスター』

本作の見所はやはりこのふたりの濃厚すぎる演技ということになるだろう。彼らふたりが揃っているシーンはいずれも画面に異様な強度が宿っており、"何か決定的なことがここで起こっている"という、目が離せなくなるような気分にさせられるのだ(とはいえ、"本…

『査察官』/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

『査察官』はゴーゴリの戯曲だ。今作も、この本に納められている他の2編と同様、落語調で訳されている。 舞台はロシアのとある田舎町。市長をはじめとする町の有力者たちは、ペテルブルクから査察官がお忍びでやって来るらしいとの情報を得て、ぴりぴりと過…

「鼻」/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)作者: ゴーゴリ,浦雅春出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/11/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含むブログ (59件) を見る ある朝、床屋のイワン・ヤーコヴレヴィチがパンをナイフで切り分けていた…

『花様年華』

いわゆるラブストーリーのプロットを持つ本作だけれど、彼らの出会いや、恋に落ちて別れるまでのプロセスといったものが具体的に描かれているというわけではない。この映画で扱われているのは物語というより、禁じられた恋の情緒、詩情とでもいうべきものな…

「プロハルチン氏」/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

ドストエフスキー全集〈第1巻〉 (1963年)作者: 小沼文彦出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1963メディア: ?この商品を含むブログを見る プロハルチン氏は、家族もいなければ友達もいない、貧しい下級官吏の老人である。貧しいといっても、役所勤めもそれなり…

『二重人格』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

ちょっぴりマイナーな、ドストエフスキーの第2作目。その名の通り、いわゆる「分身小説」だ(俺が読んだのは岩波文庫の小沼文彦訳『二重人格』だけれど、訳によっては、タイトルを『分身』としているものも多い)。主人公のゴリャートキン氏は九等官の役人。…

『LIFE PACKING 未来を生きるためのモノと知恵』/高城剛

本書は、ぶっとんだライフスタイルでおなじみの高城剛が、海外をあちこち飛び回る放浪生活を営んでいく上で、これだけはどうしても外せない!と選びに選び抜いたグッズの、コメントつきカタログといった趣の一冊だ。高城の生き方は大抵の人にとってきわめて…

『経済の文明史』/カール・ポランニー

経済の文明史 (ちくま学芸文庫)作者: カールポランニー,Karl Polanyi,玉野井芳郎,石井溥,長尾史郎,平野健一郎,木畑洋一,吉沢英成出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/06/01メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 36回この商品を含むブログ (50件) を見る ハ…

『ビフォア・ザ・レイン』

DVDで。救いや希望はまるでなく、陰鬱なムードが全体を覆っているものの、美しい映像や凝った構成からは非常な繊細さが感じられる、そんな映画だった。テーマとして扱われているのは、旧ユーゴ紛争の一環で独立したマケドニアの国内における、マケドニア人と…

『ブルックリン・フォリーズ』/ポール・オースター

オースターの小説の主人公は、作者の年齢とともに少しずつ年寄りになってきているけれど、本作の語り手はもうすぐ60歳、壮年期も終わりに差し掛かり、すでに仕事をリタイヤしたおっさんである。そんなおっさんが、オースターの小説の主人公らしく、延々と内…

『わがタイプライターの物語』/ポール・オースター

オースターは、ごく若い頃に友人から安く手に入れたタイプライターをいまだに使い続けている。聞く限りでは、コンピュータというやつはどうも信用ならないもののようだし(間違ったキーを押すと、原稿がいきなり消えてしまったりするっていうじゃないか!)…

『トムは真夜中の庭で』/アン・フィリッパ・ピアス

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))作者: フィリパ・ピアス,スーザン・アインツィヒ,Philippa Pearce,高杉一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/06/16メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 54回この商品を含むブログ (100件) を見る これは素晴…

「駅長ファルメライアー」 /ヨーゼフ・ロート

「おそらく、ファルメライアーは帰還したヴァレフスカ伯爵をひと目見るや、己の敗北を決定的に悟ってしまったのだろう…」だとか、「ファルメライアーの諦めは、自分は戦争という特殊な状況下だったからこそ、伯爵夫人と結ばれることができたのだと強く自覚し…

『純愛(ウジェニー・グランデ)』/オノレ・ド・バルザック

これもドストエフスキー関連で読んだ一冊。1844年、作家としてデビューする前のドストエフスキーが翻訳した、バルザックの有名作だ。もともとのタイトルは、"Eugénie Grandet"。「人間喜劇」的には、「地方生活情景」に属する作品だ。 フランスの田舎はソー…

「駅長」/アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン

(037)駅 (百年文庫)作者: ヨーゼフ・ロート,戸板康二,プーシキン出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2010/10/12メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログを見る またまた『貧しき人びと』関連のエントリになるけど、こちらは、「外套」とは違って、…

「外套」/ニコライ・ワシーリエヴィチ・ゴーゴリ

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)作者: ゴーゴリ,浦雅春出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/11/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含むブログ (59件) を見る 先日エントリを書いた『貧しき人びと』のパロディ元である、ゴーゴリの「…

『貧しき人びと』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(その2)

マカールの発話のスタイル――他者の視線を内面化し、先取りした他者の言葉に絶えず反発しながら自分語りをする――や、その病的なまでの熱烈さというやつは、まさしくドストエフスキー独特のものだけれど、マカールというキャラクターの設定自体は、ゴーゴリ「…

『貧しき人びと』/フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(その1)

貧しき人びと (新潮文庫)作者: ドストエフスキー,木村浩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1969/06/24メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (34件) を見る ドストエフスキー、24歳のときのデビュー作。作品のボリューム的には、まあ中編といった…

『学び続ける力』/池上彰

池上の"ふつうさ"から感じられるのは、彼の凡庸さというより、むしろ、彼の非凡さだ。本書では、「XXの発言を聴いて、私は~と思いました」という形式の文章がずいぶん目につくのだけど、池上は、東工大の学生たちの反応、テレビ・ラジオのニュースやバラエ…

『愛その他の悪霊について』/ガブリエル・ガルシア=マルケス

愛その他の悪霊について作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,旦敬介出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/08/01メディア: 単行本 クリック: 11回この商品を含むブログ (24件) を見る 混み入って重層的な物語構造が用いられることの…

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』/古賀史健

20歳の自分に受けさせたい文章講義 (星海社新書)作者: 古賀史健出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/01/26メディア: 新書購入: 5人 クリック: 48回この商品を含むブログ (33件) を見る ネットだか雑誌だかで絶賛されている記事を読んで、そうかーじゃあ読ん…

『とるにたらないものもの』/江國香織

江國香織のエッセイ集。タイトル通り、身のまわりの「とるにたらないものもの」――ふつうに存在しているもの、無駄なもの、べつに気にしなくても何の支障もないもの――に宿る詩情への偏愛が語られている。どれも2,3ページ程度の短い文章だけれど、彼女独特の視…

『黄色い雨』/フリオ・リャマサーレス

黄色い雨作者: フリオリャマサーレス,Julio Llamazares,木村榮一出版社/メーカー: ソニーマガジンズ発売日: 2005/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ (38件) を見る まったくもう、これも素晴らしかった!泣きたくなる…という…

『mbv』/My Bloody Valentine

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン22年ぶりの新譜。まさか本当に出るなんてね…って驚きもあるけど、それより何より、22年経ってもやっていることがまるで変わっていないのがすごい。 いや、ふつうのポップ・ソングみたいな"New You"とか、ドラムンベースな"W…

『狼たちの月』/フリオ・リャマサーレス

スペインの作家/詩人、フリオ・リャマサーレスの初の長編小説。いやー、これはもう、びっくりするほど素晴らしかった!物語の語り手はスペイン内戦の敗残兵(故郷の山奥に逃げ込んでいるが、フランコ派の軍隊の監視があるために、何年経ってもそこから下りて…

『うたかたの日々』/ボリス・ヴィアン

ヴィアンの何よりの魅力は、シャンパンの泡のように軽やかでさわやか、きらきらと透明に輝くその文体だろう。重さや寓意性などといったまどろっこしいものはことごとく退けられ、ひたすらエレガントであること、ナンセンスであることだけに意識が向けられて…

『新書で入門 ジャズの歴史』/相倉久人

新書で入門 ジャズの歴史 (新潮新書)作者:相倉 久人新潮社Amazon ジャズの歴史について、その誕生からモダン・ジャズ神話の崩壊までが、スマートにまとめられた一冊。ブルーズ→スウィング→バップ→ハード・バップ→モード→フリー…みたいなジャンル内の流れだけ…

"丸刈り謝罪メッセージビデオ"のこと

昨日あたりから、"AKB48のメンバーの女の子が、グループのルールであるところの「恋愛禁止」を破ったことの反省として、自ら頭を丸刈りにして、涙ながらに「ごめんなさい」と言うビデオ"の件がひどく話題になっている。AKBとかアイドルグループについての知…

『読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門』/佐藤優

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門作者: 佐藤優出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2012/07/27メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 361回この商品を含むブログ (68件) を見る 佐藤優による、読書術本。佐藤は毎月およそ…

『なつのひかり』/江國香織

江國香織の95年作。タイトル通り、白っぽい日差しや湿った匂い、けだるさ、客のこない小さな商店、田園、砂浜などといった、夏のイメージが全編からただよってくる、ちょっとシュルレアリスティックな匂いのするのファンタジーだ。江國作品らしく、登場人物…