作品概要・所感
オランダの写真家、アンネ・ジーネによる鈍器のように分厚い写真集。葉、花、枝、茎、植木、雑草、低木、茂み、落葉…といったさまざまな状態の植物たちを、Types(植物の状態ごとにまとめて分類), Analysis(葉の色味などを分析), Herbarium(葉の標本コレクション), Archive(過去に著者が撮影してきたのであろう植物写真たち)の4章に分け、500ページあまりに渡って掲載している。
写されているのはいずれもとくに変わった植物ではないし、ロケーションについても、ごく身近なところ、住宅地や路地、公園などといったところがほとんどのようである。また、写真の1枚1枚は、ドラマ性をまったく感じさせない、淡々とした記録写真然としたものになっており、つまり、その単体として強力な力を持っているような写真――たとえば、テリ・ワイフェンバックが、身近な場所のなかから特別な美を見出そうとしているような――がここに収められているわけではない。本作におけるジーネの写真の特性は、被写体である、どこにでもあるような植物たちの姿とよく似たものだということができるだろう。
膨大なコレクションが描き出す美のイメージ
ただ、それらの写真が膨大なコレクションとして整理され、その外観、形状、色彩…といった分類によって図鑑のようにまとめられていくなかで、ある一連のイメージが描き出されていくことになる。それは、ごく小さな植物のいちパーツに宿る美が、ある自然の風景の美しさにまで繋がっていく…というイメージ、逆に言うと、この世界における自然の美しさというのは、ごく身近にありふれたどんな植物のごくいちパーツのなかに見出すことができる…そういったイメージである。
本書の鑑賞者は、そんなミクロとマクロを行き来するようなイメージのおもしろさを感じつつ、植物の種類や状態による同一性や差異など、日常ではなかなか気にかけることもないような、自然の作り出すささやかでありながら驚くべき美しさを味わっていくことになる。
写真集というものの良いところのひとつは、本当に単純な話、たくさん写真が載っている、ということだとおもう。本書の、辞書や図鑑のような分厚さ、重さは、それだけこの世界に見るべき/写し出すべき美しい植物が存在している、ということの力強い宣言であり、それはもしかしたら、この世界で生を生きるということの歓びにまでも繋がっていきうるものであるのかもしれない。そんなことを感じさせてくれる一冊だった。
