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『写真講義』/ルイジ・ギッリ

作品概要・所感

イタリアの写真家、ルイジ・ギッリが1989年から90年にかけて大学で行った講義をまとめた一冊。全13回の講義は、ポジとネガの違いといった写真技術のごく基本的なところから、写真とはそもそもいったい何で、現代人はイメージと、そして世界とどのように向き合っていくべきか、といった内容にまで広がっていく。最終章では、レコードジャケットと写真との関係についてもかなり詳しく論じられている。(ギッリは幅広いジャンルのレコードジャケットの撮影を手がけていたのだという。)

現実とイメージの均衡点を探る

ギッリの写真といえば、日常的で地味な被写体、パステルトーンの柔らかな色彩、整然としてミニマルな構図、ボケを廃した平面性、といったところが特徴だろうか。こうした構成の美しさから、彼の写真は「絵画的」と形容されることも多いけれど、だからといって、彼の写真が「カメラを使った絵画」だというわけではないだろう。

本書でギッリは、フレーミングという行為を通じて、現実に類似する別の空間、別のイメージを作り出すことについて語っている。それは、現実をありのままに写すというわけでもなければ、絵画的なイメージを恣意的に生み出すというわけでもない。そのどちらとも異なる、現実とイメージ、外界と内界とのあわいにある「均衡点」を探り出し、そこに光を当てることを、彼は重視しているのだという。

それは、世界と関わる一つの方法として、写真について考えるということです。そこには撮影者のしるし、つまりその人個人の物語やその人の存在物との関係が色濃く反映されます。しかし錬金術にも似た繊細な作業を通じて、私たちの内面ーー私の写真家・人間としての内面ーーと私たちの外で生き、私たちがいなくとも存在し、撮影した後も存在し続ける外的な存在物との均衡点を捜し当てる方向に向かわねばなりません。(p.18)
写真とはものごとを明らかにする、ものごとに光りを当てて見えるようにする表現だと私は確信しています。写真の本質は光で書くことですから、その基本は光とともに仕事をすること、光について繊細な感性を働かせることです。(p.182)
現実の中にどのように神秘の場所があるか、測り知れない場所があるかを見せる方が私はいいと思いますし、そうした場所は写真イメージの面白味も決定づけるのではないかと考えています。(p.185)

ギッリにとって写真とは、いわば光を通じて世界を問い直す行為だというわけだ。だから彼の作品には、メタ的な仕掛け(絵画やポスターなど、すでに作成されたイメージをさらにイメージとして撮ったもの)や、コラージュのように見えるもの(しかし実際にはコラージュではなく、現実の場所を撮影したもの)が多く含まれているのだろう。それらこそが、彼が言うところの、現実の中の「神秘の場所」、「計り知れない場所」なのだ。一見、人工的な構成に見えるそれらの写真が、実は現実そのものを撮影したものであるという事実が、見る者の認識にズレを生じさせ、新しい視点を与えることに繋がっている。

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ちなみに、俺がギッリの写真を初めて意識して見たのは、たぶん須賀敦子全集の表紙に使われた「モランディのアトリエ」の写真だったとおもう。独特な余韻を感じさせる静謐なムードが良いし、何より本の雰囲気とめちゃくちゃ合っているな、くらいのことはおもっていたのだけれど、その作品が生まれる背景にはこういった彼の写真観があったというわけだ。