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『シヴァ・ベイビー』

作品概要・所感

ユダヤ教のシヴァ(葬儀直後からはじまる喪の儀式)の一日を舞台に、女子大生ダニエルのアイデンティティが崩壊していくさまを描く。ダニエルはシヴァの場でシュガーダディ(パパ活相手)との関係をひた隠しにしながら、彼の妻や赤子、自身の元カノにまで遭遇し、親や親戚からのプレッシャーにさらされ、あれよあれよという間に追い詰められていってしまう…!

「パパ活女子、お葬式で修羅場。」という軽快なコピーからは到底想像できないくらい、しっかりと主人公の内面を抉り出した映画である。というか、内面を抉り出し過ぎているがために、人間ドラマであり、コメディでありながらも、若干ホラーの領域に踏み込みかけている感すらある。執拗に鳴り響く弦楽器の不協和音が、その感覚をさらに増幅させている。

近くで見れば悲劇、遠くから見れば喜劇

みんなが自分より素晴らしい人生を送っているように感じる、他人から見下されたくない、自立した大人になりたい、でもどうしたらいいかわからない、これから先の人生が恐い…。ダニエルの抱えるそんな息苦しさ、じんわり嫌な汗をかくような焦燥感が、全編とおしてこれでもかと描かれていく。

パニックを起こして自棄になったダニエルは、シヴァ中に数々のイタい行動を取っていってしまうわけだけれど、観客は「あちゃ〜」と思いつつも、彼女のいたたまれなさが痛いくらいに共有されているものだから、その感情、そのふるまいを突き放してしまうことができない。いや、そうしたくなる気持ち、わからんでもないよ…なんておもってしまったりするのだ。

そしてこの、ダニエルのふるまいを突き放せない感覚こそが、本作の奇妙なおかしさの源でもある。「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」と言ったのはチャップリンだが、まさにそれが体現されているのだ。ダニエルが陥った状況は半分くらいは自業自得なのだし、そこでの悪あがきはことごとく裏目に出てしまう。本人にとっては地獄でしかないシヴァの一日だが、少し離れた目線から見れば完全なコメディでしかない。

78分というコンパクトな尺ではあるものの、ダニエルの心理がとにかく濃密に描かれているので、没入感がものすごかった。映画が終わったときには「ようやく終わったぜ…!」と、厄介な親戚の集まりから解放されたときのような、ちょっとすっきりした気分になったりもしたのだった。