作品概要・所感
ボブ・マーリーの伝記映画。彼の音楽をそれなりに聴いたことがある人なら、きっとかなり楽しめる一作だったようにおもう。ボブ・マーリーやラスタファリズムについてある程度の前提知識がないと「?」となりそうなシーンも結構あるものの、Wikipedia等を5分くらい読んでざっくりと予習しておけば問題なく楽しめるはずだ。
最近の音楽ものの映画としては全体的にちょっと地味ではあったけれど――クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』とまではいかなくても、もう少し各ライブシーンが長くてもよかったかなとは感じた――ボブのファミリーやウェイラーズの面々は何しろ格好良いし、映像も美しく、レゲエらしい身体に響いてくるような重低音も素敵だった。
ボブ・マーリーの人生全体を順々に描いていくのではなく、ポイントを絞って描いているところが本作の特徴だろう。1976年に自宅を襲撃されてからイギリスに脱出→『Exodus』を引っ提げてのヨーロッパツアー→ガンが発覚するも治療拒否→78年、ジャマイカに帰還し平和コンサートへ、というまさにボブ・マーリーの歴史の重心とも言える部分をしっかりと描いた作品になっている。
ボブ・マーリーの「正史」
ボブの妻リタ・マーリー、子のジギー・マーリーとセデラ・マーリーが監修に加わり、ウェイラーズメンバーの実子たちが役者として出演している本作は、さまざまな有名エピソードに彩られたボブ・マーリーの人生の「正史」としての役割を担わされているのだろう。だからたとえば、ボブの浮気についてはほどほどの描かれ方にとどまっていたりする(…と言っても、当時のジャマイカにおける男女の力学や、ラスタの思想に基づく家族観がどのようなものであったのかを、現代日本人の自分が厳密に理解するのはそもそも難しそうなのだけれど)。
その一方で、ファミリーが関わっているからこそ映像化できたシーンや証言というのも多くあるだろう。彼らが認めた物語であるからこそ、観客はこれをボブ・マーリーのある意味「本当の姿」として素直に信頼して受け取ることができる。それこそが本作のいちばんの強みだと言っていいのではないか。
映画を見る前は、主演のキングズリー・ベン=アディルはボブを演じるにはシュッとし過ぎだし背も高過ぎではないかとおもっていたのだけれど、喋り方からちょっとした身体の動かし方まで、その再現度・憑依度の高さには素晴らしいものがあった。あ、これボブ・マーリーのインタビューとかライブ映像で見たことあるやつだ…!という既視感を覚えるくらいだった。さすがファミリーが認めた男である。
本作を見てからというもの、それまでボブ・マーリーの名前すら知っているか怪しいくらいだった妻が一日中ボブの曲を流しまくっており、おかげで最近はとくに『Exodus』を聴きまくっているのだが、やっぱり聴けば聴くほど名盤だな!と感心してしまう。各曲のクオリティが高いのはもちろん、アルバムトータルでの流れが素晴らし過ぎる。映画では、このアルバムから新たに参加するギタリスト、ジュニア・マーヴィンが初めて腕前を披露するシーンが描かれていて、そのグルーヴ感がめちゃくちゃ格好良かったのも印象的だった。

