久しぶりにヒラリー・ハーンのバイオリンを聴きにいったところ(このブログの過去記事によると、11年振りになるらしい…)、やっぱりとても良かったので感想を残しておく。今回は、アンドレアス・ヘフリガーというピアニストとのデュオによる、ブラームスのソナタ3つのプログラム。
ハーンの演奏は以前と変わらず、端正とか精密とかいう言葉がぴったりくる感じで、やっぱりこの人の音はぜんぜん違うな!と思わせてくれるものだった。各音符が極めて規律正しく整列しながら、しかしそこにまったく窮屈さはなく、あくまでも自然に音楽を形作っている…というその美しさは、本当にハーン独特のものだと思う。もっとも、昔と比べると、緊密さよりはナチュラルさを重視した演奏になっていたような気もする。(いや、11年という歳月を考慮すれば、以前の記憶など頼りにはならなさそうだ。単に自分が歳を取ったために、そんなふうに感じたというだけのことかもしれない。)
対して、ヘフリガーの演奏は、ちょっと大味というか音の粒立ちがはっきりしないところがあるというか、ハーンとは結構異なるタイプであるように思えた。ハーンが極細筆なら、ヘフリガーは太筆、というか。ふたりのテンポが噛み合っていないタイミングなんかもちょこちょこあったように思えた、というのが正直なところではある。まあ、ハーンがさしたる意図もなしに共演の相手を決めるはずもないだろうし、このふたりのテイストの違いにも、おそらく自分には汲み取れていないような理由があったのだろう…とは思う。
ソナタ3曲とも、全体的なテンポはかなりゆったりめ。まったくパッション的ではなく、穏やかでオーガニックな、なんとも大人な感じのブラームスになっていた。そういう意味では、やや地味めなコンサートではあったかもしれない。一緒に聴きに行った妻は、隣でうつらうつらしてしまっていたが、まあ気持ちはわかるな、という感じ。
しかしその分、各曲とも2楽章の味わいは素晴らしく、とくに2番と3番の2楽章は心がとろけていくような美しさであって、それだけでも聴きに来てよかった…!と思えるようなクオリティだった。もしかすると、ヘフリガーは緩徐楽章でこそその良さが発揮されるタイプ、ということなのかもしれない。
曲目は以下のとおり。
ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調「雨の歌」 op.78 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 op.100 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第3番 ト長調 op.108 * ウィリアム・グラント・スティル マザー&チャイルド ブラームス F.A.E.ソナタより スケルツォ