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『私の財産告白』/本多静六

私の財産告白

私の財産告白

明治から昭和にかけて日比谷公園の設計や明治神宮の造林など行い、「公園の父」とも呼ばれた男、東京大学教授にして大資産家でもあった本多静六による資産/人生論。60年以上前の本だけれど、そのエッセンスはいまでも古びていない。というのも、彼の主張はきわめてシンプルかつまっとうなもので、煎じ詰めれば、"収入の四分の一を貯金する"→"種銭ができたら投資する"という、ただこれだけに過ぎないからだ。一代で巨大な資産を築き上げたとはいえ、いわゆる成金、一攫千金的なところはまったくなく、とにかく健全、堅実、実直というコツコツ型の権化みたいな人だと言っていい。「金儲けとは、理屈や計画ではなく、実際であり、努力である。予算ではなく、結果である」と語る本多の言葉には、まったく曇りや迷い、浮ついたところがない。地に足ががっちりとついているのだ。

そんな本多の人生観は、「人生即努力、努力即幸福」というもの。これもなんというかど直球という感じで、何の衒いもないところがすごい。そしてまた、「幸福」についてはこんな風に書いてもいる。

私の体験によれば前にもしばしば述べたように、人生の最大幸福は職業の道楽化にある。富も、名誉も、美衣美食も、職業道楽の愉快さには比すべくもない。

すべての人がおのおのその職業、その仕事に、全身全力を打ち込んでかかり、日々のつとめが面白くてたまらぬというところまでくれば、それが立派な職業の道楽化である。いわゆる三昧境である。

仕事を道楽化し、「幸福」を得るために必要なのも、要は"面白くなるまで全力で努力"、ということで、筋道が通っている。この世のなかには、貯金や努力をはじめ、"基本的に誰にでもできる成功法ではあるけれど、まず大抵の人にはできていないこと"というのがたくさんあるけれど、そんな「一般解」をひたすら愚直なまでに実行し、継続し続けることで結果を出してきたのが本多だと言えるだろう。

そういうわけで、全体的にどストレートすぎて眩しいくらいの一冊だった。毎日1ページずつ原稿を書き続ける習慣があったため、370冊以上の著作がある(!)とか、学者でありながら、現在価値で言うところの100億円クラスの資産を作り、後年それをすべて寄付してしまう(!!)などといったすさまじい所業をやってのけた人だけのことはある。本書には、本当に特別なこと、特殊なことは何も書かれていないのだけれど、その言葉の安定感ということでいえば、たとえば邱永漢と比べても、もう賢者のランクが違う、という感じがしたのだった。