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『「残業ゼロ」の人生力』/吉越浩一郎

「残業ゼロ」の人生力

「残業ゼロ」の人生力

トリンプ・インターナショナル・ジャパン元社長の吉越による、人生後半をたのしむためのかんがえ方をまとめた一冊。 吉越は人間の人生を、

  • 勉学中心の「学生期」
  • お金を稼ぐ「仕事期」
  • 何にも縛られず自由に生きる「本生(ほんなま)期」

の3つに分けるとするならば、人生の価値は「本生期」にこそある、と言う。「本生期」というのは吉越の造語で、「本当の自生、本番の人生、本来歩むべき人生」という意味であるらしい。「余生」とは真逆のかんがえ方、とのこと。

充実した「本生期」を送るために必要なのは、「仕事期」の残業を無くすことだ、というのが本書の主張である。仕事を効率よく就業時間内に終わらせ、残業時間を「本生」に向けて投資することが必要なのだ。

とにかく、残業をゼロにして、本生に投資するための三時間を確保することができれば、人生の充実度――人生力は必ず高まります。(p.18)

吉越曰く、仕事というのは要はお金を稼ぐゲームであり、仕事の意味はお金を稼ぐこと以外にはない。そしてそれが中心になるのは人生の一フェーズにしか過ぎないのだから、ワーカホリックのようにそれに人生を捧げるようなことをしてはいけない。だから、残業を極力ゼロにして、「仕事期」のあいだから夫婦や家族とじゅうぶんに対話する時間を確保し、仕事以外の人脈を作り、定年後のマネー戦略を立てておき、なるべく長期のバカンスを取り、健康でい続けることで、「健康」「富」「幸福」をしっかりと準備して「本生期」を迎えましょう、ということだ。要は、「本生期」を意識することで、働き方を見直しましょう、残業などせずに効率的に動きましょう、というわけだ。

仕事というのはゲームですから、気をつけないとパチンコや競馬のように簡単にのめりこんでしまいます。
しかも、仕事の場合はギャンブルと違って、自分はいいことをやっているという意識がなまじあるものだから、逆になかなか歯止めがきかない。(p.32)

だいたい、ILO132号条約にも明記されているように、二週間連続の長期休暇がすべての労働者に必要だというのは、国際標準の考え方なのです。それなのに、一人ひとりがその休みをちゃんととれるような協力体制が組めないのなら、それは、その職場に問題があるといわざるを得ません。(p.116)

仕事=ゲームという仮想空間を去ったあとに、ようやく本生=自分の実人生が待っているのです。
こうかんがえると、たかがゲームでしかない仕事に自分の人生を重ね合わせるのは、明らかに間違いだとは思いませんか。(p.158)

本書は2008年の発行ということで、働き方改革で残業時間削減、とか定年後のために2,000万貯金、なんてことで世の中が騒ぎ始める10年ほど前から吉越はこういう主張をしていたわけだ。本書で語られている「残業ゼロで本生期のために3時間投資」というような働き方を日本人が全面的に受け入れるようになるまで、まだまだ時間がかかるだろうことは想像に難くない。せめて自分は「本生期」をなるべく意識して働いていこう…とおもわされたのだった。