ガクチョーは語っている。
わたしはこうも確信する。作者みずからが「第二の小説」と呼んだ続編には、「第一の小説」を上まわる壮大な物語世界が約束されていたのではないか、もしかすると、いまわの際にあって作者は、「第一の小説」にみずから穿ったいくつかの空白を、「第二の小説」の空想をもってして補ってくれることを、後々の世の読者に託していたのではないか、と。(p.10)
若干飛ばしすぎなきらいもあるが、とにかく熱い。本全体に、ドストエフスキー愛がほとばしっているのを俺は感じた。というか、正直言って、読んでいてちょっと身悶えした。カラマーゾフまた読みてええ!って。俺は、新潮社のカラマーゾフしか読んだことがないので、ガクチョーによる「解題」(光文社の5巻にはいってるやつ)は未読なのだけど、とりあえず、この本はカラマーゾフ読者の、“もっと事情を知りたい/いろんな情報から妄想したい”欲を満たしてくれるものであるようにおもった。
論全体の方向性としては、
わたしたちは、証言や「著者より」と矛盾しない「皇帝暗殺」説の物語を探りあてねばならないのである。(p.65)
ということであって、なかなか論理的に、証言や文献、先行研究を軽んじることなく、「カラマーゾフの続編」が「空想」されている。「空想」というのがミソで、単純な妄想ではなく、きちんとした論拠が提示されているところが、(あたりまえだけど)この本のいちばんの読みどころであり、おもしろさだといえるだろう。
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以下、論の中身とはあまり関係ないところで、わかったこと/おもしろかったこと。
1、カラマーゾフって、連載小説だったんだ、ってこと。
『カラマーゾフの兄弟』の連載がいよいよ終わりに近づいた一八八〇年の末、首都サンクト・ペテルブルグでは、こんな噂がささやかれていた。
「続編では、アリョーシャが皇帝暗殺の考えにとりつかれるそうだ」(p.14)
こんなわくわく感、やばいよなー。だって、毎月、カラマーゾフの物語がちょっとずつ更新されていくわけでしょ。そりゃ興奮するよー。
2、カラマーゾフの「序文」(「著者より」)って、「読者からの評判がきわめて悪い」(p.66)んだ、ってこと。
まあ、評判の悪さが、とくにデータによって示されているわけではないんだけど、これはかなり意外だった。俺は、こういう大作についている序文ってやつが、だいすきなので。さあーこれから長い長い物語がはじまりますよ、って感じで、わくわくする。抽象的で、本文との繋がりがよくわからないほうが、おもしろい。