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『サードドア 精神的資産のふやし方』/アレックス・バナヤン

勉強に嫌気がさしてしまった医学生のバナヤンは、現代の「成功者」たち――ビル・ゲイツ、スティーブン・スピルバーグ、レディー・ガガ――の伝記や評伝を読みあさる。そうして、彼らが自分と同じくらい若いころに、どんな風に成功の第一歩を踏み出し、これだというような人生の始まりをスタートさせたのか、という「聖杯」を見つけるべく、彼らにインタビューをして回ろう、それを本にしよう、とおもい立つ。

バナヤンは、「本当のところ、僕は何に興味があるんだ?どう生きたいんだ?」という自分の気持ちに愚直に従いながら、また、多くの人に助けられながら、すさまじい行動力でもって「成功者」たちにインタビューするための旅を続けていく。もちろん、その旅路のなかで、「聖杯」などというものは存在しない、ということが明らかになっていくわけだけれど、それを20歳そこそこの若者が、これでもかというくらい多くの失敗を繰り返し、当たっては粉々に砕けまくりながら少しずつ体得していく…というプロセスがみっちりと書き込まれているところが、本書のおもしろさだと言っていいだろう。

バナヤンの失敗には、大人からすれば、なんでこんなアホなことを…!とおもってしまうようなことも多々ある――というか、ほとんどがそういう類のことだと言っていい――のだけれど、でも、そんな風にかんがえる良識を持った大人たちが彼のような行動を起こし、最終的に「成功者」になるということはない、ということもまた確かだと言えるだろう。未来を変え、どのような意味であれ「成功者」になることができるのは、じっさいに行動を起こした者だけなのだ。本書のなかで、どんなに不格好でも、バナヤンは常に目的を目指して動き続けている。そうすることで、彼は自分の「精神的資産」を増やし続けているのだ。

そういうわけで、本書の主張のひとつは、人間は成功ではなく、むしろ失敗からこそ学ぶことができるのだ、というものだと言えるだろう。失敗とは、大目に見られたり、寛容に許されたりするようなものではない。そうではなくて、失敗とは、成功までの長い道程の途中に必ず存在している、学びや経験の機会そのものなのだ。自分の限界を超えたチャレンジを行い、失敗の回数を重ねることで、はじめて人は成功に近づいていくことができるのだ。

ビル・ゲイツのアドバイスは、僕にとっての聖杯では決してなかったことがわかった。
彼に会おうとしてしでかしたたくさんの失敗こそが、僕を大きく変えてくれたんだ。
僕は、成功と失敗は正反対のものだと常に思ってきた。でも今は違う。実はどちらも、挑戦した結果という点で同じものなんだ。
もう成功にはこだわるまい、失敗にもこだわるまいと自分に言い聞かせた。
僕は挑戦し、成長することにこだわっていたい。(p.416-417)

また、バナヤンは本書の終盤で、ハリー・ポッターのダンブルドア校長の言葉――「君が何者であるかは、君の持っている能力でなく、君の選択によって決まるんだよ」――を引いた後、こう書いている。

小さな決断によって、誰もが人生を大きく変えることができる。
みんなが並んでいるからと何となく行列に加わり、ファーストドアの前で待つのも自由だ。
行列から飛び出して裏道を走り、サードドアをこじ開けるのも自由だ。
誰もが、その選択肢を持っている。
これまでの旅で学んだ教訓が1つあるとすれば、どのドアだって開けられるということだ。
可能性を信じたことで、僕の人生は変わった。
可能性を信じられる人間になることで、可能性を広げることさえできるんだ。(p.435)

人生というのは小さな決断の集積に他ならないわけだけれど、たいていの決断の結果は失敗ということになるだろう。本書のエピソード群から伝わってくるのは、そこでいかに諦めず、可能性を信じてさらに失敗するための決断を行い続ける、ということの重要さ、いわば、精神的タフネスの重要さとでも言うべきものだ。