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『キッズ・リターン』

キッズ・リターン [Blu-ray]

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早稲田松竹にて。北野武、オートバイ事故からの復帰第一作。シンプルというか、どちらかと言うと地味なくらいの脚本だけど、なんだかずっしりと心に残る映画だった。

扱われているのは、若いってことのほろ苦さや、ふいに訪れる挫折とそこからの再出発、みたいなありがちな題材なのだけど、それに対する安易な共感や憧憬のようなものを感じさせないところがいい。なんていうか、青春ものっぽいストーリーなわりに、きらきらとした希望や甘ったるさといったものがほとんどないのだ。王道のエンタテインメントなら、主人公は挫折した後にしかるべきかたちで復活し、何らかの成功や勝利に向かって突き進んでいくものだけれど、この映画にはそのような予感がまったくない。主人公たちはただ単に挫折し、しかし挫折した後もまた平凡な彼らなりの生活を続けていく他ない。それってまあごく普通のことではあるものの、やっぱり残酷なことだ。平凡であることの残酷さっていうのは、なんともリアリティがあって、胸にくる。

物語を描き出していくのは乾いて透明な、ややもすれば冷徹なくらいの視線であり、そのせいか、主演の2人――金子賢と安藤政信。当時は2人とも演技経験は少なく、素人同然だったらしい――はくっきりとした輪郭、実在感を持っているように感じられる。あーこういうやついそうだよね、って素直におもえてしまうわけで、彼らの味わうことになる、生きることの苦みもまた、ある重みを持ったものとして感じられた。そんなところがよかった。

この作品でも、音楽は久石譲。相変わらず、久石の音楽からは記号的なセンチメンタリズム以外ほとんど何も感じられないのだけれど、主人公が若者2人、ってこともあってか、物語の青さに見事にフィットしているようにおもえた。俺は久石譲の音楽がきらい、っていうよりは、彼の音楽の使われ方、受け入れられ方が気に食わないだけなのかも…。