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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『リミッツ・オブ・コントロール』

吉祥寺バウスシアターにて。1カ月くらい前にやっていた爆音上映で見た。ほとんど極限まで削ぎ落とされ、記号化されたストーリー、描写のなかで、ジャームッシュのスタイル、ポリシーみたいなものがしぶい輝きを見せる、そんな映画だとおもった。

余計な背景描写はなし、登場人物たちの心情や思考、行動の動機についても説明はなし、おまけに主人公はほとんどしゃべらない、ってことで、作品には常に緊張感が漂っている。とはいえ、物語はあくまで淡々と流れていくばかりで、アグレッシブな展開や感情の揺れ動きといったものはほとんど存在しないかのようだし、クライマックスのシーンにしたって、その静けさは地味と言ってもいいくらいのものだ。これっていったいどういうこと?何を言わんとしているの?って疑問が、映画を見ているあいだずっと続いていくわけで、なんだか居心地が悪いような気分にもなる。けれども、それがつまらないってことではなくて、ジャームッシュらしい小道具やモチーフ、よくわからないけどでも何か意味があるんだろうとおもわせる、作中で何度も繰り返される行動パターンなんかがいい感じのフックになっているから、つい引き込まれて見れてしまう。

そうして物語が終わったとき、ジャームッシュは作品全体を通して、「大切なのは想像力だ。想像力を使え」とひたすら観客に呼びかけ続けていたのだと気づかされる。いったん気づいてみれば、物語も映像も音楽も、作品の構成要素すべてがそのメッセージのために存在しているかのように感じられなくもないくらいに、その主張は明白なものだ。全体によく統率のとれた、びしっと決まったかっこいい映画だったな、っておもえてくる。

そんな熱い主張をミニマルな手法で描き出したこの映画はかっこいいし、独特な映像とドローン音楽、ふしぎな印象の物語を使ってしぶい作品を作り上げたジャームッシュもやっぱりかっこいい。憧れてしまうようなかっこよさだとおもう。ただ、かっこいいのはたしかなのだけれど、どこか「かっこよすぎる」気がしてしまう、というのもまた、俺にとってはたしかなことだ。そこには何ていうか、泥臭さや意地汚さ、怠惰といったものが欠けている。もちろん、これはそういう作品じゃない、って言ったらそれはそうなのだろうけど…。でもやっぱり、クールで一貫していて、モチーフも狙いもぴたっと収まるべきところに収まっている感じのするジャームッシュは、俺にはときどきちょっとかっこよすぎるのだ。