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『ウォールフラワー』

日比谷TOHOシネマズシャンテにて。他人とコミュニケーションを取ることが苦手で、文字通り「壁の花」だった16歳の少年が、自分を認めてくれる友人たちと出会い、彼らと共に時間を過ごすなかで、友情や恋愛にまつわるさまざまな喜びや苦しみを知っていく…という、いわゆる通過儀礼についての物語だ。まあ、王道ど真ん中をいく青春映画だと言っていいだろう。原題は、"The Perks of Being a Wallflower”。

本作の物語は、こういったティーンの友情ものにはお決まりのエピソード――自分を理解してくれる先生が現れたり、コカインパーティではじけてみたり、友人がゲイであることをカミングアウトしてきたり、好きな子がいけ好かない奴と付き合っていたり、友達グループのなかで「やらかして」しまって居場所をなくしたり――の連なりによって構成されている。いずれも既視感のある内容ではあるのだけれど、なかなか描写がていねいだし、主人公たちの自然体な演技が素敵なのもあって、たのしく見ていられた。(ただ、物語の後半に至って、主人公の幼少時のトラウマが明らかになる、という展開については、ちょっと蛇足であるようにも感じられた。主人公の「壁の花」的パーソナリティがトラウマ由来の特殊なものであるかのように見えてしまうことで、物語の普遍性が減退してしまうようにおもえてしまったからだ。)

作品の舞台は90年代前半のアメリカで、主人公たちはザ・スミスやデヴィッド・ボウイを集めたミックステープを作って交換したり、『ロッキー・ホラー・ショー』を舞台で演じたり、レコードやタイプライターをプレゼントし合ったりする。こういう細部にはなんとも言えないわくわく感があるし、クライマックスのシーンでデヴィッド・ボウイの"Heroes"が使われるのなんて、むちゃくちゃにベタだけれど、やっぱり、ぐっときてしまう。

要は、誰しもが通ってきた10代の頃を振り返ってみたときにだけ感じることのできる、きらきらとして甘酸っぱいノスタルジーの感覚にフォーカスした作品というわけで、こういう物語に感情移入しないでいるのは難しい。なりたい自分になるため、欲しいものを手に入れるために、なけなしの勇気を振り絞って前に一歩を踏み出そうとする16歳♂の物語なんて、もう誰が見たってキュートに決まっているのだ。

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…そういえば、デヴィッド・ボウイの曲って、映画のなかで使われるとすごく印象に残ることが多いなー、とおもう。『ドッグヴィル』の"Young Americans"や、『ライフ・アクアティック』のセウ・ヨルギによる"Starman"カヴァー、最近だと『クロニクル』の"Ziggy Stardust"の使われ方なんかは、どれも素晴らしかった。ドラマティックな曲調や歌詞が、物語の世界観となんとも絶妙にマッチしているのだ。