本の読める場所を求めて作者:阿久津隆朝日出版社Amazon "本の読める店"fuzkueの店主である著者が、文字通り「本を読むための場所」としてのカフェを作ろうと決意し、生み出し、それを運営していく上での思考の過程や、試行錯誤のようすについて書いている一…
イーユン・リーによる長編第3作。16歳で自殺した少年と、作家であるその母親との対話だけで構成されている小説だ。 自身の内面深くに沈潜し、想像し、書くこと、そうしてフィクションを作り出し、フィクションのなかで生きること――たとえそこが「理由のない…
古代オリエント最大の神話文学にして、世界最古の叙事詩とも言われる「ギルガメシュ叙事詩」のアッシリア語原文ーー粘土書板に楔形文字で刻まれたーーからの日本語訳。 紀元前2500年頃に生み出された人類最古の物語が、生と死を扱った、極めて根源的な「行き…
タイトルの通り、小林が10代の若い人に向けて10冊の本を紹介する、という一冊。それだけではものすごくありきたりで退屈な本――いわゆる教養ガイド本的な――になりそうなものだけれど、そこは小林、自身の若いころの読書体験を引きながら、本を読むとはどうい…
バルトの処女作。とにかくわかりづらい文章が多く、よく理解できたとは到底言えないのだけれど――それでも、大学生の頃にちくま学芸文庫版を読んだときよりかは幾分ましだったとおもう――簡単にノートを取っておくことにする。 * 本書におけるバルトの主張は…
じつはモームの長編ははじめて読んだのだったけれど、いやーむちゃくちゃ面白い小説だった!エンタテインメント的なストーリーのドライブ感を持ちながらも、相当に複雑な人間の像が描き出されており、読書の愉しみを十全に味わせてもらった。 本作は、作家で…
本作は、オリバー・ツイストという少年の成長物語ではない。一種の貴種流離譚であり、オリバーの彷徨を利用して社会の低層を描いた作品だと言った方がいいだろう。なかなかの長編ではあるのだけれど、はっきりとオリバーの目線から描かれるパートは前の半分…
UPLINK Cloudにて。50歳でコンサートピアニストを引退し、80歳を過ぎてもなおピアノ教師を続けている、シーモア・バーンスタインの姿を描いたドキュメンタリー。とっても地味で静かな映画ではあるものの、全編に流れるピアノの音色が素晴らしい、なかなか素…
アン・タイラーは、とにかくふつうの市井の人々の描写というやつがむちゃくちゃに上手い。というか、そもそも彼女の小説はすべて、そういった人々を描いたものだと言ってもいい。ひとくせもふたくせもあることは間違いないけれど、でも本当に平凡な人々、に…
文庫版3〜5巻では、「ハンニバル戦記」というタイトル通り、ローマに攻め込んだカルタゴの天才、ハンニバルと、それに立ち向かっていったローマの武将たちとの戦いの数々が描かれている。1,2巻で扱われていたような法制度や国家の成り立ちの話は少なく、戦記…
塩野七生による長大な歴史エッセイの第1巻(文庫では1,2巻)。紀元前753年とされるローマ建国神話から王政→共和制への移行、平民階級の台頭と貴族対平民の抗争、リキニウス法の制定による平民の包括、エピロスの王ピュロスとの戦いを経てローマが前270年頃に…
本書の冒頭で、「前作『宇宙を語る』より、もっとわかりやすい本を書けると気づき、本書を執筆しました」とホーキングは述べているけれど、相対論と量子論について簡潔な説明をしている前半の2章はともかく、後半に進むにつれて扱われるトピックの難易度はぐ…
Amazon Primeにて。スティーヴン・ホーキングの元妻、ジェーンによる原作をもとにした映画。ケンブリッジ大学大学院で理論物理学を先行していたスティーヴン(エディ・レッドメイン)は、中世詩を学ぶジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、ふたり…
東大の歴史学教授である加藤が、栄光学園の中高生たちに行った5日間の講義をベースに書かれた一冊。日清戦争から太平洋戦争まで、近代日本の戦争の歴史がテーマになっている。 講義は、加藤が生徒たちに史料(報告書、書簡、日記、地図など)や歴史家の意見…
オースターの2008年作。2000年代にオースターが書いていた「部屋にこもった老人の話」の第5作目ということで、本作も、ひとりの老人が自室の暗闇のなかで眠りにつくことができず、頭のなかで物語をあれやこれやとこねくり回している場面から始まっている。 …