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本、映画、音楽の感想/レビューなど。

『若い人のための10冊の本』/小林康夫

タイトルの通り、小林が10代の若い人に向けて10冊の本を紹介する、という一冊。それだけではものすごくありきたりで退屈な本――いわゆる教養ガイド本的な――になりそうなものだけれど、そこは小林、自身の若いころの読書体験を引きながら、本を読むとはどういうことなのか、つまり、ある本を見つけ、出会い、向き合い、かんがえるとはどういうことなのか、を解き明かしていくように語ってくれており、読みものとしてなかなかにおもしろいものになっている。

小林の主張のベースにあるのは、本というメディアへの信仰にも似た信頼と愛情であり、できるだけわかりやすい言葉でそれを次の世代に受け渡していきたい、という純粋な想いであると言っていいだろう。小林が「あとがき」で、自身の孫たちがもし将来この本を手にとったら…という気持ちで、彼らに語りかけるように書いた、と述べている通り、本書はまさにおじいちゃんの愛情たっぷりといった感じの一冊になっており、俺は読んでいてすっかりうれしくなってしまったのだった。

君が、人生のこの時期に、君自身の「10冊」をもつことができるなら、どんな本だっていい。それと出会い、それを読んだことが、君の人生にとって、ふしぎな意味をもたらしてくれたと後々思えるような本を君がみつけてくれればいいのです。(p.22)
人生において「出会う」ということは大事です。いや、人生においてほんとうに重要なことは、ただひとつ、それだけです。人に出会うこと、それに尽きる。そして、図書館は、相手は「幽霊たち」かもしれませんが、まぎれもなく人であり、まったく知らない人と出会う場所なのです。つまり、図書館は、「出会い」のエクササイズの場所なのですね。(p.54)

…という感じに小林の文体がいい感じなのに加えて、「10冊」のセレクトというのがまたなかなか素敵なのだ。以下にメモしておく。

  • 『幽霊たち』/ポール・オースター
  • 『パンセ』/パスカル
  • 『中原中也全集』/中原中也
  • 『ジャコメッティとともに』/矢内原伊作
  • 『夜と霧』/フランクル
  • 『ノルウェイの森』/村上春樹
  • 『音楽と社会』/ダニエル・バレンボイム、エドワード・サイード
  • 『ホーキング、未来を語る』/スティーヴン・ホーキング
  • 『ゲド戦記』/アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 『檀流クッキング』/檀 一雄

俺自身、15歳か16歳のころに、学校の図書館に新潮文庫の新刊で入ってきた『幽霊たち』を手に取ったのが海外文学を読み始めるきっかけになったのだったのだし、そのころの自分自身の「10冊」には村上春樹もル=グウィンもばっちり入っていたこともあって、なんだか少し懐かしいような気分にもさせられてしまったのだった。そして、10代の頃の気持ち――本と映画と音楽さえあれば幸せだし、こんなにもたのしいものたちが一生かかっても堀り尽くせないほどたくさん世のなかにはあって、しかもそれらについて自分にはどうやっても叶わないほど深くおもしろく語っている人がいる、ということに言い知れないほどのわくわく感を感じていた、そんな気持ち――をずいぶんとひさしぶりにおもい出したりもしたのだった。

本を読むこと、世界と出会うこと、小林の言い方で言うなら、「人間であることを学ぶ」こと。本書はまさに、その愉しさを改めておもい出させてくれる一冊だった。若い人だけではなく、本好きのあらゆる人におすすめしたいとおもう。

本とは、まさにこの一生続く「人間であること」の学びのためのものなのです。いいですか、本から学ぶのは、知識なんかじゃない。そんなものどうでもいい。学ぶべきことは、ただひとつ「人間であること」、それをすでに「人間」である君が果てしなく学び続ける。それだけが人間にとって唯一のほんとうの「義務」なのです。(p.131)