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『ギルガメシュ叙事詩』

古代オリエント最大の神話文学にして、世界最古の叙事詩とも言われる「ギルガメシュ叙事詩」のアッシリア語原文ーー粘土書板に楔形文字で刻まれたーーからの日本語訳。ところどころテキストが欠けてはいるものの、物語の展開はきちんと追えるようになっている。

物語の主人公は、メソポタミアはウルクの王、半神半人のギルガメシュ。暴虐な君主として知られていたギルガメシュだが、自分と同じような力をもつエンキドゥと邂逅することで、友情を得る。やがてふたりは杉の森に住み着くフンババを倒して悪を追い払ったり、また、女神イシュタルがギルガメシュに振られた腹いせに送り込んできた天の牛を退治したりする。だが、フンババと天の牛を殺した咎で、エンキドゥは神々によって死の宣告を受けることになってしまう。ギルガメシュは親友エンキドゥの死を看取った後、自らにも訪れるであろう死の恐怖にさいなまれ、永遠の命を求めて旅に出る。長い彷徨の果てに、彼はついに不死を得ることができないまま旅を終え、ウルクに城壁を建造することになる…!

紀元前2500年頃に生み出された人類最古の物語が、生と死を扱った、極めて根源的な「行きて還りし物語」であるというのは、納得感がある。やはり人間にとって、人間の死というのは永遠の最重要テーマなのだろう。不死を望まずにはいられない人間の業と、にも関わらずやはり人間は死すべき存在である他ない、という冷徹な認識とが、この物語の骨格を形作っている。

フンババ討伐に恐れをなすエンキドゥに対して、(まだ死を恐れることを知らない)ギルガメシュはこんな風に語っている。

「だれが、わが友よ、天〔上〕まで上ることができようか
 太陽のもとに永遠に〔生きるは〕神々のみ
 人間というものは、その(生きる)日数に限りがある
 彼らのなすことは、すべて風にすぎない
 おまえはここでさえ死を恐れている
 おまえの英雄たる力強さはどうしてしまったのだ
 私をお前より先に行かせてくれ
 お前の口に呼ばわせよ、『進め、恐れるな』と
 私が倒れれば、私は名をあげるのだ
 『ギルガメシュは恐ろしきフンババとの
 戦いに倒れたのだ』と
 わが家の子孫ののちのちまでも」(p.58)

「彼らのなすことは、すべて風にすぎない」というところが良い。ギルガメシュやエンキドゥのような英雄であったとしても、人間はすべてあくまでも限られた生を全うすることしかできず、彼らのなすことのすべては、吹き過ぎてゆく風のようなものでしかない。けれど、それが文学という器に収められることで、彼らの行為や思考が、彼らの喜びや苦しみや悲しみが、何千年の後世にまでも伝わっていくことがあるのだ。そして「子孫ののちのちまでも」、その物語に美しさを感じることができるのだ。これをロマンと言わずしてなんと言おうか、ってやつである。