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『都市とモードのビデオノート』

ザ・シネマメンバーズにて。80年代後半、ポンピドゥー・センターからの依頼を受けたヴェンダースが、山本耀司のパリコレに向けた準備の様子を追ったドキュメンタリー映画。フィルムカメラとビデオカメラ、パリと東京、アイディンティティとイメージ、永遠のクラシックと刹那的なモード、オートクチュールとプレタポルテ、芸術とビジネス、生活道具としての衣服と消費文化財としてのファッション…といった要素たちを対置したり、それらが互いを内包し合ったりしている様を映し出したりしながら、そのすべてを一息に丸呑みしてしまう怪物、山本耀司の思考に迫っていこうとする。

山本は、人と服との関係性について、アウグスト・ザンダーの写真集、『20世紀の人間たち』に見られるような状態が理想だと語る。『20世紀の人間たち』は、大量のポートレートによって人間のカタログを作り、当時の社会の全体像を捉えようとした、なかなか力技というかほとんど狂気を感じさせるような構想から生まれた作品だが、山本はそこに映し出された農民や職人のたちの顔や服に、ひとつの理想形を見ているのだという。彼らは現代人のように服を消費することはなく、その服とともに一生を過ごす。そういう服はまさに生きるための服であり、友達や家族のような服、その服を見ただけでその人のものだとわかるような服だと言える。彼らは服ではなく現実を着ており、それは流行とは何の関係もない。自分もそんな服を作りたいし、自分の服がそんなふうに着られたら嬉しい。と山本は言う。自然に身体と同一化してしまっているような服、着る人の人生の一部であるような服、生き方がそのまま映し出された服、といったところだろうか。

また、Yohji Yamamotoといえばアシンメトリーや空気を間に含んだデザインが特徴的だけれど、作中でも、山本はシンメトリーなもの、予定調和なものは美しくない、壊したくなる、などと繰り返し語っている。そして、それに呼応するように、本作の映像では、モニターや窓枠、画面分割等を利用した複雑な入れ子構造やアシンメトリーが多用されている。ヴェンダースと山本耀司、ジャンルこそ異なれど、メインストリームから一定の距離を取りつつ職人的で芸術的な作品を生み出している者同志として、互いをリスペクトし合い、共鳴し合っているのがよく伝わってくる映画だった。

いちばん好きだったシーンは、「もし別の仕事を探すことになったら?」と問いかけるヴェンダースに対し、山本が、「女性がらみの仕事がいいね。女性が外に働きに行き、私は家でTVを見たり読書したりして、彼女が帰ってくるのを待つだけ。それで彼女にはすごく優しく親切にするんだ。そういうのを日本語でヒモっていうんだ」などと答えるところ。なんともチャーミングで、とてもよかった。