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『チャリング・クロス街84番地 書物を愛する人のための本』/へレーン・ハンフ

1949年、ニューヨークに暮らす脚本家のハンフは、ロンドンはチャリング・クロス街84番地の絶版本専門の古書店、マークス社に宛て、ほしい書籍のリストーー地元では手に入れにくい英文学の本たちのリストーーを手紙で送る。マークス社の店員ドエルは入手した書籍をハンフに送り、そこからハンフとドエルをはじめとするマークス社の面々との20年に渡る文通のやりとりがはじまる…!という往復書簡集。まだ世界がいまのようにフラットになりきっていない時代、海を挟んでののんびりした手紙のやりとりは、なんだかとても心地よい。

彼らの交流のベースにあるのは、本好き同士のごく緩やかな連帯感とでもいったものだが、手紙で暑苦しい文学談義が交わされるようなことはない。ハンフが辛口かつユーモアたっぷりに、「XXの本ってほんとにひどいわ!△△はないの?」と尋ねると、翌月になってドエルが、「△△は在庫がございませんが、先日、□□の美しい古書を仕入れることができました」と返す、といったやり取りが大半なのだ。ネットでいつでもいくらでも本が探せてしまういまとなっては、こんなスローペースなコミュニケーションは到底成立しないわけだけれど、本書で描かれている時間の流れ方には、憧れてしまうようなところがある。

また、ハンフが本に対する思い入れや主張を開陳してみせるところもたのしい。

私は見返しに献辞が書かれていたり、余白に書き込みがあるの大好き。だれかほかの人がはぐったページをめくったり、ずっと昔に亡くなった方に注意を促されてそのくだりを読んだりしていると、愛書家同士の心の交流が感じられて、とても楽しいのです(P.70-71)
毎年春になると書棚の大そうじをし、着なくなった洋服を捨てちゃうように、二度とふたたび読むことのない本は捨ててしまうことにしています。みんなこれにはあきれていますが、本に関しては友人たちのほうが変なのです。彼らはベストセラーというと全部読んでみますし、しかもできるだけ早く読み通してしまうのです。ずいぶん飛ばし読みをしているのだと思います。そして、どの本もけっして読み返すということがないので、一年もたてばひと言だって覚えていません。(p.129)
世の中に、悪書や二流の書物ほど軽蔑すべきものはないというのが私の意見です。(p.129)

本書でハンフがチャリング・クロス街84番地から取り寄せようとする本たちは、サミュエル・ピープスの日記やクィラー=クーチの講義録、アイザック・ウォルトンの『伝記集』、トクヴィルの『アメリカ紀行』、チャールズ・ラム『エリア随筆』などなど。著者名とかタイトルくらいは聞いたことがあるけれど、いままでまったく触れたことのなかったものも多くて、これを機会にチェックしてみなくては…!とおもったのだった。