- 出版社/メーカー: ショウゲート
- 発売日: 2008/07/25
- メディア: DVD
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まもなく死を迎えようとするとき、人は何をおもうのか?過去に犯した過ちや失敗は、決して取り返すことが叶わないのか?というのが、本作のメインテーマだと言えるだろう。死を目前にしたアンと、記憶のなかの若かりしアン、そしてアンの2人の娘の視点を用いて物語は語られていくのだけど、まあ話としては正直かなり地味だと言っていい。要はおばあちゃんの回想が大半を占めいているわけで、しぶいのだ。
ただ、この映画、そんなしぶめの話にしては女優陣がなかなか豪華で。ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ、グレン・クローズ、クレア・デインズ、メイミー・ガマー(←メリル・ストリープの娘。この親子はかなりよく似ている)、って演技派がずらり揃っているわけで、見ごたえがある。彼女らの演技こそが作品の味わいを決定づけていると言っていいだろう。
そうそう、そういえば、先日読んだ、イアン・マキューアンの『初夜』で扱われていたのもちょっと似たような内容だったな。人生の最も決定的な瞬間として、結婚式の一日が選ばれているところなんかも同じだ。ただ、切り口が異なっていることで、両作品のムードはほとんど対照的なものになっているようにおもう。
おもいきって一息に要約してみるなら、『初夜』は、"一度失ってしまったものは、もう二度と手に入らない"という悲しみや切なさを優雅な手つきで描き出した作品だったけれど、『いつか眠りにつく前に』においては、"死を前にしてみれば、そのような過ちなど些細なことにおもえてくるもの"、そして、"かつて、たしかに輝ける瞬間があったということ、それはまぎれもない事実であり、ままならない日々の生活や目前に迫った死をもってしても、決して失われることはないのだ"という主張が作品全体を(地味ながらも)力強いものにしている、という感じだろうか。
アンは死の床で、若かりし日の自分と愛した人、犯してしまった過ちのことを鮮明におもい起こす。この映画の大半は、その結婚式の一日の出来事が描かれているわけだけど、それは、アンにとってその日が人生における最も決定的な一日だったからなのだろう。とはいえ、もちろん、そんな決定的な一日を過ぎた後でも、人は地道に毎日を送り続け、ゆっくりと歳をとっていく他ない。それは悲しむべきことなのか?輝けるある瞬間が過ぎ去ってしまった人生を、人はどのように捉えるべきなのか??本作のラストシーンは、静けさのなかですべてを大らかに肯定するような、穏やかな感覚に包まれている。