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『精霊の守り人』/上橋菜穂子

やや和風な世界観のファンタジー。女用心棒のバルサはふとしたきっかけで、国の第二皇子、チャグムを連れて逃亡の旅をする羽目になった。チャグムには精霊の卵が産みつけられていて、父王からの刺客や、卵を狙う別の精霊も彼らのことを追ってくる。果たしてバルサはチャグムと卵を守りきることができるのか…!というのが、まあ、おおざっぱなストーリー。

児童文学ってこともあり、物語の展開やキャラクターの造形なんかは優等生的な感じだ。それに全体的にわりと地味な印象もあるのだけど、それはケレン味が少ない、ってことで、むしろその辺が大人もたのしく読める要因になっているようにもおもった。ファンタジー小説の肝である世界観も、とても丁寧に構築されていて、あーこれこれ、こういうのをファンタジーって言うんだよ!ってきぶんにもさせられた。

あと、作者は文化人類学者らしいんだけど、例えばこの辺りにそういう感じが出ているかも。

「どこの国でも、身分の高い者は身を飾りたがるってことさ。たとえば将軍は、つねに英雄でなければならない。将軍が卑怯者だったら、だれが尊敬してくれる?/たとえ、平の兵が苦労して勝ちとった勝利でも、戦の手柄は将軍のものさ。それが、時がたつにつれて、伝説にまでなっていく場合だってあるんだろうよ」(p.132)

「強い者が伝えた伝説と、弱い者の伝えた伝説では、たいがい、弱い者の伝説のほうが、曲げられるだろう、ってのが、経験からわかるからさ」
「たしかにそういうこともあるけど、しいたげられた者たちも、よく伝説を飾ると、おれは思ってる。そうしないと人としての誇りをたもてないからね。」(p.133)

そうそう、歴史って結局勝者の歴史なんだよなー、とかっていまではよくわかるけど、小学生のときにこういう明快なことばに出会ってたら、けっこう大きな影響を受けたかも、なんておもわなくもない。いや、違うかな、こんなところは適当に読み飛ばしてしまったかもしれない。わからないけど。

ま、でも、こういうだいじなことを児童文学で描くのって、すげーいいことだとはおもう。小学生のころ、戦国時代アディクトだった自分(←『信長の野望』の攻略本とか、めちゃめちゃ熟読してた)に読ませてやりたかったなー、なんておもった。