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『キック・アス』

横浜ブルク13にて。最近流行りの"ヒーローとはいったい何か?"という疑問に正面からぶつかっていくアメコミヒーロー映画。さすがあちこちで高評判なだけのことはあるなーっておもえる、とてもクオリティの高い作品だった。

主人公は、スクールカースト最下層の弱々しいオタク。彼はネット通販でヒーローの衣装(全身タイツ)を購入し、僕はヒーローになるんだ!って、自警団を気取って街を徘徊するようになる。…って、こいつはもうどうかんがえたってただの変態でしかないのだけど、そんなへたれな彼が物語のなかで少しずつ本物のヒーローに近づいていくことになるわけで、これはなかなかぐっとくる展開である。まがいものでしかなかったはずのもの、現実逃避気味のファンタジーが、やがては現実をも変えていってしまう、ってところが、ベタだけどすごくいいのだ。

そんなベタなアメコミヒーローへのオマージュになっている本作だけど、キック・アスがふつうのアメコミヒーローと違うのは、ヒーローたる主人公たちに特殊能力が与えられていない、っていうところだろう。特殊能力が与えられていないということは、"選ばれ"てもいないし、"特別"でもなんでもない、ということだからだ。(主人公キック・アスと絡んでくる別の変身ヒーローたち、ヒット・ガール、ビッグ・ダディにも同様に、特殊能力は与えられていない。彼らはべらぼうに強いけれど、それは彼らが超人類だからなのではなくて、ただふつうにがんばって鍛えているから強い、ってだけなのだ。)

基本的にはげらげら笑って見ることができる映画なのだけど、選ばれし者でもなんでもない彼らの必死のがんばりに、ふと涙が出そうになるような展開があったりもして、油断できない。練りこまれた脚本に、キャラクターのおもしろさが合わさって、誰もがたのしめる、それでいてテーマについての深みも持ち合わせた、理想的なエンタテインメント作品に仕上がっているとおもった。