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『おおかみこどもの雨と雪』

イオンシネマ金沢フォーラス店にて。女子大生の花は、ある男と出会って恋に落ちる。いっけんただの小汚いフリーターに見える男だったが、じつは彼はニホンオオカミと人間とのあいだに生まれた"おおかみおとこ"であって、人間の姿、オオカミの姿、その中間くらいの姿を自由に変化させることができるふしぎ生物なのだった。やがて互いに愛し合うようになった彼らは、女の子(雪)と男の子(雨)、ふたりの子供をもうけ、家族4人でつつましいながらも幸せな生活を送るようになる。が、そんなある日、父親であるおおかみおとこは事故で命を落としてしまう。残された花はひとり子育てに奮闘するものの、オオカミと人間の性質を併せ持った子供たちを都会で育てるのはあまりにもむずかしい。花たち3人は人里離れた田舎に移り、そこで暮らしていくことにするのだが…!

本作は、タイトルこそ"おおかみこども"となっているけれど、基本的には、「お母さんの子育て奮闘記」として描かれた作品だと言えるだろう。この物語の主人公はあくまでも花であり、すべてのできごとは、彼女の母親としての視点から語られているのだ。そのため、ふたりの"おおかみこども"についても、彼らの属性として作中でもっとも強く効果が発揮されているのは、彼らの"おおかみこども"性ではなく、彼らの"子供"性だということになる(おおかみだろうが何だろうが、母親からすれば、自分の子供であるということがいちばんだいじ、ということだ)。また、雨と雪はそれぞれに問題を抱え、各々それに立ち向かっていくわけだけれど、姉弟どちらの問題にしても、ごく一般的な子供が遭遇し得るたぐいの問題であって、彼らが"おおかみこども"でなければならない理由いうのは、物語上では、とくにないようにおもわれる。

つまりこれは、「特殊な事情がありながらも子供をつくって、でも夫はいなくなってしまって、それでもがんばって子育てするお母さん」の物語であって、たとえば、「オオカミと人間の狭間でアイデンティティの問題に悩む子供たちと、それを見守る母親の葛藤」を描いた作品とかではない、ということになる。となると、本作における"おおかみこども"という設定は、物語のファンタジーっぽさの強化くらいにしか役に立っていないんじゃないか、と言ってもいいような気さえしてくる…。

…のだけれど、そういった、設定を生かしきれていないところ、オトナ目線だけで描かれているところ、手堅くまとめるためにプロットからやっかいな要素を除外してしまっているところ、といった本作の弱点については、見ているあいだはほとんど気にならなかった。なにしろ、画面の色調や音楽がとにかくすばらしかったし、作品全体を包んでいる、ポップだけど上品さを失わないこの雰囲気のまえでは、そういう突っ込みは野暮で余計なことであるように、俺にはおもえてしまったのだった。

それと、物語のエンディングでは、「雨と雪とお母さんの3人が過ごした12年間は、ほんとにあっという間の12年間でした…」みたいなナレーションが流れるのだけど、そのとき、ああそうなんだろうな、本当に――いま、この映画を見ていた時間が過ぎていったのと同じように――あっという間の時間だったんだろうな…って、ものすごく素直に感じられて。俺はもう、すっかり満たされた気持ちになって映画館を出てしまったのだった。