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『博士と彼女のセオリー』

博士と彼女のセオリー (字幕版)

Amazon Primeにて。スティーヴン・ホーキングの元妻、ジェーンによる原作をもとにした映画。ケンブリッジ大学大学院で理論物理学を先行していたスティーヴン(エディ・レッドメイン)は、中世詩を学ぶジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、ふたりはすぐに恋に落ちる。だが、まもなくスティーヴンはALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症、余命2年の身体だと宣告されてしまう。ふたりは、自らの成すべきことを成すべく、懸命に生活を続けていくのだったが…!

ジェーンの手による日々の記録がベースになっていることもあってか、作中では、スティーヴンの研究内容についてはほんのさわり程度にしか描かれていない。その代わりに映し出されているのは、恋人、夫婦、家族としてのふたりの姿である。スティーヴンの病が多大な困難を伴うものであったこと、そしてそれを乗り越えて研究を続け、素晴らしい成果を出していたことは誰もが知っているけれど、本作はそこにではなく、彼を傍らで支え続けたジェーンと、ふたりの関係性というところに焦点を絞っているのだ。

見ていて驚いたのは、とにかく、ジェーンのバイタリティが尋常ではないということ。身体の自由もきかず、余命まで宣告されたスティーヴンと真正面から向き合い、活を入れ、半ば無理やり立ち直らせ、結婚し、彼の介護をしながら子供を産み、育てる、という、どれひとつを取ってもかなりの度胸と精神力とが必要とされそうなことを、次々とこなしていくのだ。スティーヴンとの生活が長くなるにつれ、ジェーンの表情は強く厳しいものになっていくのだけれど、その表情には、私が決めたからには最後までやり抜く、とでも言わんばかりの圧倒的な決意がにじみ出ており、どこか崇高さすら感じられるようでもある。

とはいえ、いくら強靭なメンタルを持っていたとしても、ジェーンは無敵のスーパーウーマンというわけではない。本作では、その強さと比例するように彼女にのしかかる、疲労や孤独といった苦しみについても丁寧に描かれている。スティーヴンが大変なのはもちろんだけれど、彼女だって常人では耐えられないくらいの困難な道を自ら選び、歩んでいたのだということ、そして、彼らふたりはそんな風に互いが重荷を背負っていることをどこかで受け入れ合っていたからこそ、歩み続けることができたのだろうことが、はっきりと感じられる物語になっているのだ。

だからこそ、最終的にふたりが別れ、それぞれ別のパートナーと再婚することになっても、観客は彼らが互いをリスペクトし合い、深いところで信頼し合っているのだろうことをすんなりと飲み込めてしまう。物語の終盤、ジェーンは、”I have loved you. I did my best.”と言い、また別のシーンでスティーヴンは、”Look what we have made.”と言う。こんな短くてシンプルな台詞がじつに感動的に響くのは、そこに彼らがこれまでに辿ってきた人生の重みが、ぎゅっと凝縮されているからだ。さまざまな困難や喜びを伴う長い年月について、それはふたりで共に経験するだけの価値があるものだった、と彼らがたしかに感じているのだろうことを、そのひと言が教えてくれるからだ。そしてもちろん、そうした信頼と実績によって作り上げられたものこそが、ふたりの”Theory”なのだろうということが、観客にもはっきりと感じられるからだ。