UPLINK Cloudにて。50歳でコンサートピアニストを引退し、80歳を過ぎてもなおピアノ教師を続けている、シーモア・バーンスタインの姿を描いたドキュメンタリー。とっても地味で静かな映画ではあるものの、全編に流れるピアノの音色が素晴らしい、なかなか素敵な作品だった。話には流れらしい流れもないし、画面構成もかなりシンプルで、シーモアさんが生徒にレッスンする様子や、インタビュー相手に向かってとつとつと語る姿がアップで映し出されているシーンがほとんどなのだけれど、彼の柔らかな話し声そのものがどこか音楽的で、つい聞き入ってしまうような魅力を持っている。
シーモアさんの語る内容は、言葉だけではわりと平凡というか、どこかで聞いたことのあるようなもの、と言ってしまってもいいくらいなのだけれど、何しろ彼のピアノの音と語り口調とが素晴らしいものだから、一言一言の説得力がものすごいことになっている。なんていうか、音楽に人生を捧げた人、音楽のなかに神を見出した人の言葉、って感じがものすごく伝わってくるのだ。だから、「音楽家としての自分と、普段の自分とを深いところで一体化させること」とか、「音楽は一音たりとも妥協を許さず、言い訳やごまかしも受け付けない。それに中途半端な努力も」みたいな台詞にも、しっかりとした重みというか、リアリティが感じられる。
映画のラストには、小さな会場でシーモアさんがシューマンの幻想曲を演奏するシーンがあり、これがまた涙がちょちょ切れそうになるほどに美しい。まさにシンプルな人生の幸福を知っている人の演奏、という感じなのだ。