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『漱石全集を買った日 古書店主とお客さんによる古本入門』/山本善行、清水裕也

漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門

漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門

本屋でぱらぱらとページをめくっていると、以前のエントリでも書いた、小林康夫と大澤真幸による「全集を読め」という話が取り上げられているのが目に入って、おもわず買ってしまった一冊。古書店の店主である山本と、その常連客である清水との対談本だ。

社会人になった清水は、「自分を変えなくては!」とおもい立ち、本を読み始める。当初は本屋で新刊を買って読むという行為をふつうにたのしんでいるだけで、それほど本にのめり込むようなことはなかったのだけれど、あるとき古書店で目についた漱石全集を買い求めたところ、そのおもしろさに衝撃を受け、古本に開眼してしまう。そうしてそこからわずか4年ばかりのあいだに、ものすごい勢いで古書店を巡りまくり古本を買いまくり、重度の古本マニア、古本病患者になってしまうのだ。本書の冒頭には、清水がじっさいに購入した古本たちがずらりと並んでいる写真が24ページにもわたって掲載されているのだけれど、本好きならこの写真たちだけでもじゅうぶんたのしめてしまうだろう。

対談の内容はというと、読書論、古本論というようなヘヴィなものではなく、古本にまつわるとりとめのない雑談、という感じ。そのため、古本とか古書店が好きで好きでしょうがない、っていう気持ちが全編から溢れまくっているだけの本に仕上がってしまっているのだけれど、そこが素敵なのだ。

とくにいいなあとおもったのは、ふたりとも、本から何かを得ようとか読書は投資だとかそういうことをほとんどかんがえていなさそうなところ。彼らは全編通してひたすら、~は良い、~はおもしろい、~は魅力的、~が欲しい、~を揃えたい、とかそんなことばかり言っているのだけれど、でも、~を読むべきとか、~な効用がある、みたいなことはぜんぜん言わないのだ。俺は正直、情報を得るため、知識を増やすための読書も多いし、もっといろいろな本を読みたい、読まなくては、といつも焦ってばかりいるような気もしているので、彼らの古本との戯れ方、がっつり人生をかけて趣味を楽しんでいる感じが、なんだか眩しくもおもえたのだった。

善 ”古本屋に行きたくなるとき”というのは何かあったりする?植草甚一さんがよくそういうことを言ってるけど。人によってはたとえば「正月に行きたい」とか「二日酔いのときに行きたい」とか様々やけどね。
ゆ あまりないかなぁ。というか、毎日行きたいと思っているので。強いて言うなら”雨の日は良い古本に出会える”気がしますね。普通は雨なら家にいたいけど、あえて外に出ることで良い本に巡り合える気がするというか、古本の神様が見てくれるといいますか、人の逆をすることは大事かもしれません。雨の日に廻る、というのは僕の中のジンクスですね。古本ジンクス。(p.113-114)

たとえばこういうところなんて、質問も回答もクレイジー過ぎる。「「正月に行きたい」とか「二日酔いのときに行きたい」とか様々やけどね」の時点で凡人にはもうちょっと意味がわからないうえに、それに対してさらっと「雨の日に行きたい」と答え、その上、「人の逆をすることは大事かもしれません」などと人生訓のような台詞まで付け足してみせるのだ。どれだけ古本のことばっかりかんがえてるんだよ、って話である。まったく、古本病、危険極まりない…!