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夏休み日記 09(その3)

8.27
5時頃起床。曇天。もう雨の降り出しそうな気配がむんむんなので、チャリで島を回るのはあきらめることにする。昨夜ちょびっとずつ仲良くなった同部屋の人たちと別れ、朝いちのバスに乗ってまずはベネッセミュージアムに向かった。館内にはほとんど人気がなく、小さな美術館のなかをゆったりと見て回ることができる。ジャスパー・ジョーンズの「ホワイト・アルファベット」と、ジャクソン・ポロックの「黒と白の連続」って作品がよかった。

ベネッセミュージアムを出て、どんより曇った空のもと、地中美術館まで歩いてみることにする。昨夜と同じような山道を上ったり下ったり。途中ですれ違った地元のおっさんに、美術館は10時からだよー、こんなとこ歩いてても何もないだろー、なんて言われるけど、や、この何もない感じを求めて来たみたいなところもあるので、っておもいつつ先に進んでいく。ぜんぜん日は差してこないくせに、ものすごく蒸し暑い。途中で小雨にぱらぱら降られたりしつつも、美術館近くのチケット売り場/バス停に到着し、開館時間をひとり待った。虫と鳥の声、ときどき遠くから聞こえる車のエンジン音、ってだけの静けさで、心地よいひとりぼっち感を満喫。9:30くらいにバスがやってくると、一気に人が増えた。同室だった長髪ヒゲピアスの兄ちゃんにも再会。

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そうしていよいよ地中美術館へ。地上には建物がほとんど出ていない、ふしぎなデザインの美術館だ。小さな建物なのだけど、期待に違わずものすごくかっこいい。いかにも安藤忠雄っぽいコンクリートの打ちっぱなしと吹き抜けから見える空、狭い隙間から差し込んでくる光、それと対照されるべたっとした暗闇。無機質なのにどこか温かみのある空間の全体は、独特の静けさと緊張感とに包まれていて、ここにずっと居れたらいいのに、とまたおもった。

美術館に展示してある作品は3組で、そのどれもがなかなか強烈な印象を持っていたのだけど、俺はモネの睡蓮の絵に完全に打ちのめされてしまったので、そのことだけを記しておくことにする。

何がよかったのかって、もう、まず、絵を展示してある部屋に入るまでの演出からしてかっこいいんだこれが。いかにも地下って感じの暗い廊下を抜けて歩いていくと、少しずつ空間の白さが増してくる。そうして睡蓮の部屋に突入することになるんだけど、ぱっと開けたそこは、もう全体が真っ白なのだ。いや、真っ白というか、それは本当は白と薄いグレーなのだけど、とにかく初見の印象としてはそんな風におもえるのだ。そうしてよく見てみると、間接照明に自然光が取り入れられていること、そしてそのためか耳がきいんとするような張りつめた雰囲気ではなく、もっと暖かく穏やかで同時にひんやりとした落ち着きのある空間になっていることがわかってくる。

そんな部屋のなかに展示されているのは、モネの最晩年の5枚の睡蓮の絵だ。俺がいちばん好きだったのは、大キャンバス2枚を使った巨大な「睡蓮の池」の絵で、部屋を何度も出たり入ったりしながら眺めては、滞在時間の半分以上をこの絵に費やしてしまった。なんていうか、見れば見るほど、画面から光が溢れてくるみたいな感じがするんだよなー。それに近くで見るのと部屋の入口辺りから距離を置いて見るのとで、ぜんぜん違った絵みたいに見えてくるのもおもしろいし。水面に映った木や空のいろいろな緑色、青色、紫色と、光の柔らかさとが、対比されながらもふしぎな調和を作り出していて、すごくやさしい感じもする。正直いままでモネの作品に特別な興味を持ったことはなかったのだけど、とにかくこれには打ちのめされた。本当によかった。

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昼過ぎ、バスで一気に港まで戻り、やっぱり地元民ばかりのフェリーに乗って直島とはもうお別れ。いいところだったな、今度は誰かと一緒に来てみたいな、と宇野に向かう船内でおもっていた。というか、正直、地中美術館のためだけにも、また来てもいいかな、とおもう。

また電車に乗って岡山まで戻り、辺りを散歩してみることに。駅から後楽園まで歩いてみた。むちゃくちゃに暑い。なんだよさっきまでどんよりしてたのに、っておもいつつも、夏っぽい鮮やかな緑がきれいだし、水面が風に揺れて輝きまくるようすにもいちいち感動してしまう。そこではじめて気づいたのだけど、どうやら俺は、海とか池とか川とかが太陽光できらきらってなるのがものすごく好きらしい。そっか、だからモネの睡蓮にあんなに惹かれたのか、とかおもったりする。あれはなんていうか、光を捉え、光を描こうとした絵だったような気がする。

歩き疲れて、夜は岡山駅前のネカフェに泊まることにした。去年泊まったのと同じところだ。