Show Your Hand!!

本、映画、音楽の感想/レビューなど。

小説を読むこと

小説を読むときって、その小説のなかに入っていくような感覚がある、とおもう。俺のなかでは、もしかしたら昔に本か何かで読んだのかもしれないのだけど、「海のなかに潜っていく」ようなイメージがある。

小説っていう海のなかに潜っていくためには、勢いや集中力のようなものがわりと重要だし、体が水のなかにいることに慣れることも大切だ。水のなかでうまく呼吸ができるようになれば、どんどん深くまで潜っていくことができたりして。海にもいろんなタイプがあって、簡単に潜っていけるような海もあれば、すぐに苦しくなって水面まで上がって空気を吸わなきゃやってられないような海もある。やたらと深くて底がどこなのか全くわからないような海もある。あまりにも深く、あるいは長時間潜っていると、海のなかから上がってきたときに、現実のほうが逆に現実味を帯びていないように感じられたり、なんてことも(たまには)あったりする。

小説を読むっていうのは、あたりまえだけど能動的な行為なのであって、だから小説を読むのなんてめんどい、ってかんがえる人がいるのはよくわかる。世の中には、小説を読むこと以外にもやることがたくさんあるわけだし。たぶん、エンタテインメント小説って呼ばれるものは、そういう人のために能動性をあまり発揮しなくてもたのしめる小説のことを指すんだとおもう。エンタテインメント小説があまり能動性を必要としないのは、それが“すでに知っているコード”にのっとって書かれていることが多いからで、それは誰もが簡単に潜ることのできるような海なんだろう。あるいは、そこはまだ砂浜だったりするのかもしれない。

だから俺はエンタテインメント小説には興味はねえ!とか言いたいわけじゃなくて、やっぱり小説読むのってしんどいところがあるよなー、っておもって。海岸で潮干狩りをするのはらくちんだけど、深い海に潜るためには体力も気力も経験も集中も必要になってくる。それってやっぱり、結構大変なことだ。もちろん、そういうしんどさが嫌いじゃないから小説を読んでいくわけなんだけど、たしかに小説を読むのがすき、なんて変わってるのかもー、とちょっとおもったりもする。だって、何も大変なおもいをしなくたって、ただ受け身でいればたのしめる娯楽なんて、他にいっぱいあるんだから。