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『わたしの外国語学習法』/ロンブ・カトー

5ヶ国語の同時通訳者、10ヶ国語の通訳者、16ヶ国語の翻訳者だったというハンガリー人の著者による、自伝的な外国語学習法エッセイ。これだけの外国語をほとんど自国内で学習したというのだから、さぞかし超人的な勉強法が展開されているのかとおもいきや、好奇心を持ってたくさん読む、羞恥心を捨ててたくさんしゃべる、時間をかけてコツコツやり続ける、自分の専門分野に関する事柄から学習する…などといったわりとオーソドックスなやり方が推奨されている。ハウツーものというよりは、読みものとしてたのしめる感じの一冊だ。

とはいえ、さすがは語学の達人ロンブ、彼女自身が実践してきたものとして、ユニークな方法も紹介してくれている。そのひとつは、外国語学習のごく初期の段階から、小説や文学作品を読もうとする、というもの。作品を読み進めるなかで、語彙を自分なりに把握しながら覚えていき、文法規則についても自らの手で探求していく…という方法で、どうかんがえてもめちゃくちゃ時間がかかりそうではあるのだけれど、教科書で文法事項を丸暗記しようとするよりは、ずっと記憶に残りやすいということは言えるのかもしれない。そして、語学においては、そういう原始的なやり方の方が往々にして近道であったりするのかもしれない。

あらゆる文学作品には、それが書かれた国語全体が内包されているものです。ちょうど一滴のしずくの中に海そのものが含まれるように。ですから、われわれに、作品としつこく付き合うだけの辛抱強さがあり、幾度も幾度もそれを分解し、また継ぎ合わし、再びズタズタに切り裂いては、元通りに戻してみせるということをやっていくならば、そこから実に多くのことが学べるはずです。(p.105)
この単語の意味を、わたしは自力で言い当てることが出来た、自力で文章の意味を推し当てられたのだ。この意識下で味わう自己満足こそ、最高の報いです。こんな時は、心の中で全人類に肩をたたいてやりたいぐらいの気分になるほどです。苦労は報われた。このことこそ、さらに作業を続行する促進剤なのです。(p.102)

もっとも、この方法を実践するためには、時間をたっぷりかけることに加えて、対象の外国語や作品自体にも相当な興味がなければならないだろう。そうでなければ、とうてい継続することなどできないはずだ。まあいずれにせよ、語学というやつはとにかく、受け身、お勉強という姿勢でいてはまったくダメで、能動性があればあるほどいい、というのは間違いのないところだろう。