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『脱資本主義宣言 グローバル経済が蝕む暮らし』/鶴見済

脱資本主義宣言―グローバル経済が蝕む暮らし

脱資本主義宣言―グローバル経済が蝕む暮らし

『完全自殺マニュアル』の著者、鶴見済の新刊。タイトル通り、グローバル資本主義経済の蔓延によって引き起こされているさまざまな問題を取り上げている一冊だけれど、これらのややこしい内容が、中高生が読んでも理解できるようなシンプルな文章で書かれているところがすばらしい。資本主義ってそもそもどういうこと?なぜ経済成長を続けなければいけないの?グローバル化ってどうして起こってるの?"北"の国と"南"の国の格差はどうしてまるでなくならないの?原発を稼働させることで利益を得ているのは誰なの?日本は先進国のはずなのに、どうして貧困率がこんなに高いの?…といった素朴な(しかしなによりも肝要な!)疑問に答えるためのヒントが、本書にはたくさん詰め込まれている。

とにかく、このグローバル経済に順調に蝕まれつつある現在におけるいちばん大きな問題というのは、資本の側の論理というやつがあまりにもコモンセンスと一体化してしまっていることなのだろうとおもう。そこには、たとえば大企業や経済界や、政治家やマスメディアなんかによる誘導があったりする訳だけれど、そういう下らない誘導に安易に流されないようにするためには、個々人が資本の側の論理の組成についてじゅうぶんな知識を得ること、資本の側の論理を主張する人がいったい何を根拠としているのかについて理解しておくこと、が重要になってくるだろう。

今では資本主義と無関係な場所はほとんどないとまで言われるようになった。
ではカネ儲けを第一の目的にしてしまった社会が失ったものは何か?当然のことながらそれは、「カネ儲けにつながらない価値」だ。この社会では人の健康や環境への害も、金額に換算しないと文字通り「計算に入らない」ようになってきた。ましてや我々の多様な「幸せ」について、この社会が勘定できるわけがない。
グローバル化する資本主義が、カネのあるなしにかかわらず、すべてのヒトにもたらす災いはこれである。(p.133,134)

経済を成長させることが、幸せをもたらすのか?貧困を解消するのか?"南"の国々を救うのか?すべてを市場のメカニズムにゆだねれば、うまくいくのか?経済的でないものごとには、何の価値もないのか?人は、経済的な動機だけに突き動かされて生きる動物なのか?…これらの問いに答えるのは、そう難しいことではないだろう。であるならば、なぜ、「経済のためだから」、「景気が悪いから」、「消費が伸びないから」、「現実的にかんがえて、仕方がない」などと言えるのか?それは単なる思考停止ではないのか?ふつうにおかしいとおもうべきじゃないのか?鶴見はこう語っている。

「経済のため」と言うと、社会全体のことを考えているように見えるが、実際には彼ら大企業や経済界上層部のカネ儲けのためにすぎない。農業や漁業や個人経営の商店が盛んになるのも経済の活性化だし、働く人の給料が増えるのも経済のためにはいいはずだ。なのにそれらはむしろ、「経済のため」に切り捨てられるものと相場が決まっている。
同じことは「経済成長のため」についても言える。それは、そうした企業がこの先も儲けを増やしていくため、ということだ。では、どこまで儲けるのか?どこまでもである。経済成長主義は儲け続けたい企業の願望の集合でしかないので、目標とする値などない。道路工事を永遠に続けたいのは、工事で儲けている企業だけだ。
そして「経済のため」が「大企業の儲けのため」なら、そのためにすべてを諦めて従っている我々は何なのか。それこそ我々が一番考えたくなかったことかもしれない。(p.11,12)

「すべてを諦めて従っている我々な何なのか」。まさにそれこそを、何度でもかんがえていく必要があるだろう。